経営者はイノベーションを起こすためにいったい何をすべきか? それはズバリ、慣行の外に出ること。既存事業を推進するために必要な全てのコトから離れてみる。
マーケティングとは顧客や市場を創るということです。乱暴にいうと既存事業の推進です。皆さんの会社にも営業部門はあると思います。そこには、目標を達成するために、有形無形の圧力がかかっています。
マーケティングが進展すると、お客さまへの提供価値は徐々に収れんされ、事業の絞込みや選択と集中が進みます。その際に効率を重視して、勝ちパターンや型を推進して徹底的にモデル化し、最終の顧客価値を高め続けることになるのです。
一方、組織はその都合に合わせてどんどんマーケティング寄りの常識を作り込んでいきます。常識にどっぷり浸かってしまい、マーケティング領域の人が社内で幅をきかせるようになります。経営者間での議論はマーケティング中心になる。
共通言語による会話やあうんの呼吸、数字がある程度予測できることなどによるある種のコミュニケーションの心地良さから抜け出すことが難しくなる。気づいたときには茹でカエルになってしまうのです。
では、経営者はイノベーションを起こすためにいったい何をすべきか? それはズバリ、慣行の外に出ることです。慣行とは、既存事業を推進するために必要な全てのコトです。
経営者は戦略、戦術はもとより、事業ドメイン、事業計画、意志決定の基準、組織体制、必要とされる人材や知識、スキル、人事制度、評価基準、認知と称賛、組織文化といった拘泥されている全てのコトから適宜離れないといけません。マーケティングからの脱却が必要なのです。
経営者は慣行の外に出るために、組織にカオスをつくるべきです。カオスとは、混沌、混乱といった意味です。企業が成長するにつれ、どうしても既存事業の考え方や判断基準、対話する関係者などに縛られていきます。コミュニケーションコスト、つまり意志を伝えて物事を実行するやりやすさの観点では、大変効率的ですが、マーケティングが研ぎ澄まされていくと、組織は加速度的に排他的になってきます。
常に新しい発想を生むために、不安定な組織を創りつづける。それはカオスです。不安定や混沌、逆説的ですが、そうすることで組織は動き出すのです。経営者はカオスをあえてつくりださなければなりません。
存亡の危機に陥ったら、企業はどのように行動するでしょうか? そんな状況が、数十年前に三菱商事でも起きています。1980年代売上高で常勝1位だった同社が、5位に転落した時期がありました。
社員の衝撃は計り知れないものだったようで、経営層や現場で何度も議論がなされました。売上競争を続けるか、止めるか、と。そして、売上より提供価値を磨くという経営者の決断が功を奏して、危機的状況から慣行の外に出ることに成功したのです。
当時の総合商社は、売上高が20兆円超えは当たり前。そんな激烈な売上競争という慣行の外に自らを置き直すことは、困難を極めたに違いありません。しかし、売上5位への転落という状況をショック療法として活用し、三菱商事はトレーディング会社から事業投資会社への転換を見事に成し遂げたのです。
現在、三菱商事の連結子会社は千数百社に及びます。当時も今も新卒学生の就職人気は極めて高いですが、学生が三菱商事を見る目は、「ザ・商社」から「経営者養成学校」に変化しているように見えます。経営者は存亡の危機を機会として捉え、生かし、自社を慣行の外に出さなければいけないのです。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
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株式会社プロシード 代表取締役
明治学院大学 経済学部准教授