がんを克服するためにすべきこと知っておきたい医療のこと(2/2 ページ)

» 2016年05月18日 08時00分 公開
[阿保義久ITmedia]
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 以上を踏まえてどのようにがん検診やがん治療に臨めばよいのでしょうか。

 まず、がんの発生部位の中で死因として上位を占める肺・胃・大腸・乳腺・肝臓・膵臓の中でも、早期発見の手法が確立され早期治療により高い生存率が期待できる、胃・大腸・乳腺に関しては検診を積極的に受けるべきです。特に胃がんや大腸がんは、日本の内視鏡検査・治療技術は世界トップであり、早期発見ができれば内視鏡により病変を取り除くことができます。すなわち、大きな麻酔や手術を受けなくてもがんを根治できるのです。

 胃がんの早期発見に最も役立つ胃内視鏡検査は苦痛の大きい検査として敬遠されがちですが、最近では静脈麻酔を用いて眠ったまま楽に検査が受けられる医療機関が増えてきました。ヘリコバクターピロリ菌感染や高度の胃粘膜の萎縮が見られた場合は1年に1回の頻度で胃内視鏡検査を受けるべきです。ヘリコバクターピロリ菌が除去できればがんの発生リスクを大きく減らすことができます。

 大腸がんは、高生存率の3つの要素である「早期発見が可能、進行が遅い、治療法が確立している」を全て満たすがんです。また、大腸がんの多くはポリープが徐々に悪化して発生することが分かっており、ポリープの段階で発見すれば内視鏡検査で取り除くことができます。すなわち、大腸内視鏡検査は、がんの発見だけではなく、がんの発生を予防することもできるのです。

 しかし、この検査は肛門から内視鏡を挿入するため羞恥心から検査を躊躇する方が多いのも事実です。現場では、検査を受ける時に着用する検査着は臀部がしっかりと覆われるもので羞恥心が最小限になるように工夫されています。そして胃内視鏡検査と同様に苦痛がないように静脈麻酔を用いる医療機関が増えています。便潜血検査で陽性と診断されたら大腸内視鏡検査を必ず受けるべきです。そして便検査で陰性であっても大腸内視鏡検査は50歳を過ぎたら一度は受けることをお勧めします。ポリープなど全く異常が無ければ、この検査は3〜5年の間隔で受ければ良いと考えられています。

 乳がんは、欧米では60歳代が、日本は40歳代がその発症ピークです。乳線レントゲン検査(マンモグラフィー)は死亡率を下げる証拠のある検診で、40歳以降は1〜2年に1回の頻度でこれを受けることが推奨されています。ただし、マンモグラフィーは乳腺濃度の大きい乳房ではがんを見逃すリスクが大きいという問題もあるので、検診の際には乳腺エコー検査も併せて実施することが望ましいでしょう。

 肺がんに対する胸部X線検査は早期がんの見逃しのリスクが大きいと言われています。2人以上の読影医師がダブルチェックをして過去の写真と比較することにより死亡率を低下させることができるのですが、集団検診ではダブルチェックは実現できていません。その意味では胸部CT検査が早期発見や死亡率低下に役立つと考えられています。ただし過剰診断や放射線被ばくと言うデメリットもあります。ヘビースモーカーやその間接喫煙者など発がんの高リスクの方はCT検査を定期的に受けるべきでしょう。

 膵臓は体の奥深くに位置しており、一般的な画像検査では膵臓がんの発見は難しいとされています。新たに診断される膵臓がんの70%がステージ4の進行がんで、がんの発育速度も極めて大きいため最も難治性のがんと言えます。放射線被ばくがない腹部エコー検査や腹部MRI検査(膵管の描出が可能なMRCP検査を含む)を駆使して早期発見を目指すのが現実的ですが、早期診断技術の更なる開発が望まれます。

 前立腺がんは、早期発見が可能で進行が遅いがんであり10年生存率が極めて良好ですが、治療をすることで性機能不全や排尿障害を来すリスクが大きいことが問題視されます。大半の前立腺がんは死亡の原因にならず治療の必要が無い、との考えもあります。欧米では前立腺がんが疑われても、すぐに精密検査や治療に進むのではなく、まずは血液検査やMRI検査で経過観察を行い、腫瘍マーカー値や腫瘍サイズが増悪し出したら治療を開始する「積極的監視法」が標準的です。

 がんを克服するためには、その早期発見と発生臓器に合わせた適切な治療の採択が大切ですが、がんを発生させないことに勝るものはありません。がんの発症を抑えることがほぼ確実であると科学的に実証された方法は、(1)節度ある飲酒(2)禁煙(3)加工肉・赤肉を食べすぎない(4)運動(5)減量(6)肝炎ウイルス・ヘリコバクターピロリ菌の除去(7)野菜・果実の摂取(8)減塩です。そして科学的に実証されてはいませんが、ストレスによる免疫力の低下が発がんを促す印象があります。日常的にストレスを溜めず、笑う機会を増やすことが肝要でしょう。

 万が一がんが発見されたら、難しいかもしれませんが泰然自若として前向きに治療に取り組むことが大切です。確かに難治性のがんもありますが、多くのがんは治せます。いたずらにがんを恐れずに、しっかりとがんと向き合い、がんと付き合うくらいの気持ちで治療に取り組む、そのように治療に臨まれた方ほど望ましい治療結果が得られる印象を持っています。

著者プロフィール:北青山Dクリニック 院長 阿保 義久

1965年、青森県生まれ。東京大学医学部卒業後、東京大学医学部付属病院第一外科勤務。その後、虎の門病院で麻酔科として200例以上のメジャー手術の麻酔を担当。94年より三楽病院で胃ガン、大腸ガン、乳ガン、腹部大動脈瘤など、消化器・血管外科医として必要な手術の全てを豊富に経験した。97年より東京大学医学部第一外科(腫瘍外科・血管外科)に戻り、大学病院の臨床・研究スタッフとして後輩達を指導。

2000年に北青山Dクリニックを設立。下肢静脈瘤の日帰り手術他、外科医としてのスキルを生かした質の高い医療サービスの提供に励んでいる。


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