繁栄している企業のトップは、必ず誰かの力を借りて成功している。ドラッカーが残した5つの質問に対する答えを経営チームで出し合い、議論を通じて、共通の考えを作り出してほしい。
企業の成功が活字になって見える時は、それがトップ一人の功績として取り上げられる。しかし、誰の力も借りることなく成功した人など一人もいない。具体的には、ホンダの社風は、底抜けに明るい天衣無縫な本田宗一郎によるところが大きい。そうかといって、何でもありの放任主義でもないし、決まったことさえやっていればいいという官僚主義でもない。要所要所を固めて企業という組織を形作っていったのは藤沢武夫の力だった。ホンダは、本田宗一郎あっての魅力であり、藤沢武夫あっての組織だった。
家庭内に電気の供給口は1つしかなかった頃、松下電器(現パナソニック)は電灯と電化製品を同時に使用できるようにと二股ソケットを発明した。それを考案したのは松下幸之助だが、それをつくりあげたのは松下幸之助を陰で支えた高橋荒太郎だった。高橋荒太郎は、松下電器産業(現パナソニック)に移る以前は貿易の仕事に携わっていた。為替や金融の制度を松下電器産業の経営に組み入れていった。松下幸之助あっての事業であり、高橋荒太郎あっての発展だった。
このように、実際、繁栄している企業のトップは、必ず誰かの力を借りて成功している。一代で巨大な事業に発展した企業であっても、それは一人の人間によってではなく、役割を分担する協働によって成し遂げられたものだ。
社長が関わりを持つ人は、役員幹部、社員、主要取引先の担当者、大口顧客の社長、業界の関係者、取引している銀行の担当者、株主、各種メディア、など、数えきれないほどある。社長といえども生身の人間である以上、忙しいがゆえに疎かにしてしまう仕事がある。それが、役員幹部との意思の疎通である。
社長にしてみれば、「実績をあげて、役員になったくらい優秀なんだから、いちいち意思の疎通を図らなくても分かるだろう。」と考えそのために時間を割くことは意外と少ない。結果として、気が付かないところで、社長と役員の考えの違いは大きくなっていく。
考えの違いが大きければ大きいほど、話は噛み合わなくなる。そうなってしまうと、経営チームはチームとして動けない。実際、チームとして動いていない会社は、いつも同じ問題に追われて停滞している。それに対して、チームとして動いている会社は、常に新しい挑戦を続けて発展している。
ドラッカーはこう言っている。「トップは事業について主要なメンバーに相談しなければならない。」
多くの場合、社長が自分で考えて決めたことをメンバーに伝えるという形が多い。私は、実際に主要なメンバーに相談しながら事業を進めている創業したばかりのベンチャーを見たことがある。2008年、フェイスブックの本社を訪問した。米国企業視察のツアーで、ニューヨークとサンフランシスコにある数社を訪問した中の一社が「フェイスブック」だった。その当時、日本でフェイスブックという会社名を知る人は多くいなかった。
「フェイスブック? ミクシィの米国版か。2〜3年もすればなくなるようなベンチャーだな」。当時はそれくらいにしか思わなかった。
本社を訪問したときに会社説明をしてくれたのは広報の責任者だった。私はその担当者に「あなたにとって社長はどんな存在ですか?」と尋ねた。このときはまだ社長がザッカーバーグだなんて知らなかった。
広報の責任者はこう答えた。
「彼(ザッカーバーク)は一人で何かを決めることはしない。必ず話し合って決めてくれる。だから、仕事がやりやすい。きっと、そういう環境をつくろうとしているのだと思う」
このように、伸びている会社、伸びていく会社は、必ず原則に則って仕事をしている。経営チームをつくるのに最初に行うことは、経営チームで自分たちの極めて基本的な考えについて意思決定することだ。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
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株式会社プロシード 代表取締役
明治学院大学 経済学部准教授