タイプ3 むやみに褒めるリーダーあなたは大丈夫? 指示待ち人間を作るリーダー、5つのタイプ(1/2 ページ)

褒めれば褒めるほど、上下関係が強調される。そして上下関係は、指示を出す人と従う人という構造を生み指示待ち人間の温床になる。

» 2017年12月06日 07時19分 公開
[藤田智弥ITmedia]

 この連載は、「指示待ち人間を作るリーダー5つのタイプ」を全5回にわたってお届けします。今回は3回目です。

「褒める」のわな

 指示待ち人間を作らないためには、普段から興味と関心を持ってメンバーを観察し、対話し、そして一貫した姿勢で叱らなければならない。「タイプ2 叱れないリーダー」で詳説した通りだ。

 とはいえ、メンバーは叱られるよりも、褒められたい。「もっといいマネジャーになるために、私にできることは何だろう?」との問いに、「もっと褒めてほしい」と即答されたことを思いだす。

 私だって褒められたい。ところが、「褒め言葉を受け止めていない」と言われたことがある。そのように私に指摘した相手から「できる」「うまい」と褒められたとき、確かに不快に感じていた。なぜだろう?

 アドラー心理学の本を読んで、納得した。褒めるとは、「能力のある人が能力のない人に下す評価」だそうだ。私が、イチロー本人に向かって「野球がうまい」と言うのが相応でないのは、このためだ。

 リーダーが褒めると、メンバーは評価を受ける側としての立場を意識する。褒めれば褒めるほど、上下関係が強調される。そして上下関係は、指示を出す人と従う人という構造を生む。指示待ち人間の温床だ。そのため、むやみに褒めてはいけない。

「在り方」を認めているか?

 では、なぜ褒められたいのか? マズローの欲求5段階説でいえば4番目の「承認の欲求」がそうさせる。自分の存在、価値を認めてほしいという欲求だ。マズローによると、低次の欲求が満たされないと高次の階層に移行しない。つまり、ある程度「承認の欲求」が満たされないと、5番目の「自己実現の欲求」、すなわち「学びたい」「成長したい」という欲求は生まれないのだ。

<マズローの欲求5段階説>

 アメリカの心理学者アブラハム・マズローが、人間の欲求を理論化したもの。人間の欲求は5段階のピラミッドのように構成されており、低次の欲求がある程度満たされると、より高次の欲求を志すとされる。

図はアブラハム・マズローの「人間性の心理学」を参照し著者作成

 成長したいと願わなければ、言われたことだけをやってお金がもらえれば十分かもしれない。むやみに褒めてはダメだが、褒めなくてもダメ。指示待ち人間を作らないためには、褒めるべきポイントを、褒めるべきタイミングで伝えることが重要だ。

 スキルや能力を褒めるのは、良しあしの評価になる。上下意識が強化されるので、注意が必要だ。褒めるべきポイントは、言動に表れるその人の「在り方」だ。例えば、「誠実」「勤勉」「勇敢」「公平」「前向き」「自責」などである。

印象として伝えているか?

 コーチという職業柄、これまで多くの人に「在り方」を伝えてきた。実は、40〜50代になっても、自分の在り方に気付いていない人が多い。指摘されると、驚く。だから、受け入れやすい伝え方が重要だ。

 「協調性のある人」と断定するよりも、「協調性を大切にしていると感じた」「協調性を大切にする姿勢に、好感をもった」と印象や感想を伝える。断定すると、「あなたに何が分かる」「私は違う」と否定できるが、他人の印象や感想は否定できない。「あくまでも私の印象だから、違ったら申し訳ない」と加えてもいい。

 過去のことを例に挙げ、いつまでも繰り返し褒めていると、「その後、成長していない」と言っているようなものだ。現在の話をする。もちろん、「在り方」はそうそう変化するものではない。「協調性を大切にしていると感じた」と繰り返すのは問題ない。ただ、どこにその「在り方」を感じたかは、最近の実例を挙げて伝えたい。

勇気づけているか?

 伝えるタイミングも重要だ。努力が報われなかったときにこそ、努力の過程に見せた「在り方」を伝える。過程に成長や進歩が見られたら、そのことも伝えたい。再び挑戦する勇気が湧く。自己肯定感が強くなり、もっと成長したいと前向きになる。指示待ち人間を作らない褒め方だ。

 私が一番勇気づけられたのは、中学1年生のときだ。社会人としての経験ではないが、好例なので紹介したい。

 ある先生が、「バレンタインデーにチョコレートを渡すのは、商売人が作りあげた習慣だ。金もうけに加担するな」と発言した。家が商店を営んでいる友人は、下を向いて固まってしまった。その姿をみて、「発言を撤回してほしい」と先生に抗議すると、反抗的だと怒鳴られた。

 自分の主張を上手に伝えられなくて、悔しかった。母に話すと、「大人も間違える。先生も間違える。そのことに気付けるようになったということは、少し成長したのだね」と、言葉をかけてくれた。担任の先生は、いかに正義感が強いかを通知表の通信欄からはみだすほどに書いてくれた。

 2人とも、私の言動の良しあしは評価していない。成長と「在り方」を認めてくれただけだが、今でも鮮明に覚えているくらい、とても勇気づけられた。

感謝しているか?

 努力が報われないときに褒めて、報われて成果が出たときには褒めないのか? 例えば、高い営業目標を達成した営業パーソンは褒めるべきか?

 合意した目標を達成してくれたら「ありがとう」がいい。叱ったこと(叱り方は、「タイプ2 叱れないリーダー」を参照)が改善されても「ありがとう」。提案に対しても「ありがとう」だ。「ありがとう」に上下関係はない。思う存分感謝できる。

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