自分の声がどのような声なのか、自分自身では分かりにくい。そこで魅力的な声を出すためには、他の人からのフィードバックが不可欠である。エグゼクティブのための、声のコーディネートを学ぶ。
ITmedia エグゼクティブ勉強会に、俳優、声優、演技講師の井上優氏が登場。「声のコーディネートについて考える」をテーマにした講演で、演技のプロとして培った経験やテクニックをもとに、エグゼクティブとして魅力的な声を出すためのヒントを、ワークショップを交えながら紹介した。
「ただいまご紹介いただきました、井上優でございます。本日はよろしくお願いします」――井上氏はまず、普通の声、落ち着いた声、しゃがれ声、野太い声など、いろいろな声で自己紹介をしてみせた。「このように、いろいろな要素を組み合わせれば、さまざまな声を出すことができます」と井上氏は言う。
ITの普及により、利便性が向上し、知識や情報が共有できるようになった。その一方で、情報そのものの価値は下がり、情報をいかに活用するかが重要になっている。つまり、情報を発信する側、受け取る側の感性が重視される時代になっている。そこで必要になるのがコミュニケーション能力である。
「コミュニケーションとは、何なのでしょうか。自分の言ったことに対して、相手がイメージ通りの対応をしてくれたときにコミュニケーションが成立したといえます。言ったつもりなのに伝わっていないとか、悪気はないのに悪くとられるなどは、コミュニケーションが成立していないということです」(井上氏)
コミュニケーションを成立させるためには、自分の考え、感性を、素直に伝えるための「声の出し方」が必要になる。髪形やひげ、メークやファッションなど、見た目や身だしなみにこだわる人は多いが、声を意識する人はあまり多くないのではないだろうか。
「スピーチやプレゼンテーションでは、内容を意識します。しかし、どんなに内容がよくても、伝わらなくては意味がありません。芝居も同じで、どれだけ面白い脚本があっても、演じる役者に技術と感性がなければ面白い芝居はできません。“それは役者の世界だから”と思うかもしれませんが、日々の生活においては皆さんも役者です」(井上氏)
例えば、親から見れば自分は子どもだし、子どもに対しては、自分は親になる。親子関係だけでなく、夫としての自分、妻としての自分がいる。会社に行けば、上司として、同僚として、部下としての自分もいる。人それぞれに、立場があり、それに合わせて振る舞いや言葉づかいを変え、いろいろな自分を演じているはずである。
「違う誰かを演じると考えれば、“声のコーディネート”というものを、少し楽に考えることができるのではないでしょうか。本日は、声をコーディネートするための、いろいろな体験をしていただこうと思っています」(井上氏)
理想的な声とは、どのような声だろうか。聞き取りやすい声、よく通る声、心地よい声と、その場、その場でいろいろ変わってくる。1対1のとき、1対多のときでも声の出し方は違う。安心感のある声の方がやる気が出る人もいれば、力強く鼓舞する声の方がやる気が出る人もいる。理想的な声とは、人それぞれに異なっている。
「自分の声を録音して聞いたことがある人は多いと思いますが、自分の声がどういう声か説明できるでしょうか」と井上氏。最初のワークショップでは、まずは「名前、肩書、一言」で構成される「自己紹介」を各自スマートフォンで録音し、2人組でお互いに聞きあい、それぞれの声がどのような声なのかをフィードバックした。
当たり前のことだが、相手の声は録音も同じ声に聞こえる。自分の声は、実際より少し低い声で聞こえるが、これは、自分の声がカラダの中で共鳴しているためである。録音した自分の声を聞くと、思ったより高い声に聞こえるのはそのせいで、このことを知っておくことだけでも、声の出し方を変えることができるようになる。
息を吐くときに声帯が震えるのが、声が出るメカニズムである。声帯の振動が多ければ高い声になり、少なければ低い声になる。カラダをスピーカーのように共鳴させて、増幅させたものを舌や唇、表情筋の動きで母音と子音を形成することで言葉になる。そこで声を響かせたい場合には、ストレッチが有効になる。
1日、オフィスに座っている人は、首や肩、背中、胸の上半身をあまり動かさないため、慢性的な肩こりや腰痛になってしまう。上半身の筋肉が固まった状態だと、声が響きにくくなるため、筋肉をほぐすストレッチが必要になる。声を出やすくするストレッチの方法は、以下の通り。
(1)手を頭の後ろで組み、その手の重さを利用して、頭を前方に倒す。背筋は真っすぐのままで。首の後ろ側の筋肉のストレッチ。
(2)両手をクロスして、肩を押さえながら、頭を後方へ倒す。背筋は真っすぐのままで。この際、口内の舌全体が上顎に全てくっついた状態にしておく。首の前側の筋肉のストレッチ。
(3)左手を頭に添えて、手の重さを利用しながら、左側へ倒す。背筋は真っすぐ。両肩が地面と平行の姿勢。首の右側の筋肉のストレッチ。
(4)右手を頭に添えて、手の重さを利用しながら、右側へ倒す。背筋は真っすぐ。両肩が地面と平行の姿勢。首の左側の筋肉のストレッチ。
(5)(3)、(4)で行ったストレッチの状態から、首を前後に動かし、伸ばす筋肉のポイントを変える。
(6)首を大きく回す。左右両方とも。
※筋肉を伸ばしている際の呼吸は、ゆっくり鼻から吸って、口から細く吐くように意識
(1)肩幅、背中は軽く丸め、前方に前腕部分がくっついた状態で出す。
(2)前腕を横に開きながら、胸を横に開く。同時に肩甲骨は寄せ合っている。
(3)胸を横に開いた状態をキープしたまま、手を内側に捻り込むようにしながら、上に上げる。肋骨の間を開くように、上半身全体を縦に伸ばす。
(4)挙げていた手を真横に戻していく。胸は横に開き、肩甲骨を寄せている状態。
(5)前腕部を身体の前で合わせながら、背中を丸めていく。肩甲骨の間を開く。
※(5)が終わった時点で、(1)に戻る
※(1)〜(3)までの動きを、息を吸いながら、(4)〜(5)までの動きを、息を吐きながら、一連の動きを止めることなく流動的に行うこと。
手を肩の上に置き、肘で軌道を描くようにして回す。この際、肩を支点にするのではなく、胸や背中から大きく動かす。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
株式会社CEAFOM 代表取締役社長
株式会社プロシード 代表取締役
明治学院大学 経済学部准教授