IoT、AI、RPAなどの最新技術を活用した「攻めのIT」で新たなサービスを創出ITmedia エグゼクティブセミナーリポート

デジタル変革の時代には、蓄積されたデータから、素早く洞察を引き出し、ビジネスの価値を生み出すことが求められる。このとき経営・IT部門のリーダーはどう向き合えばよいのだろうか。

» 2018年10月29日 08時08分 公開
[山下竜大ITmedia]

10年前よりオープンイノベーションを推進する大阪ガス

大阪ガス イノベーション本部 情報通信部長 門脇あつ子氏

 オープニングセッションには、大阪ガス イノベーション本部 情報通信部長の門脇あつ子氏が登場。「データ分析で業務改革とイノベーションを推進」をテーマに、現在2府4県約600万件のお客さまにガスを供給している、大阪ガスの業務改革への取り組みを紹介した。大阪ガスでは、エネルギー自由化によるビジネス環境の変化に対応すべく、2018年3月に新しいグループブランド「Daigasグループ」を導入。「革新を、誠実に」というコンセプトに基づき、イノベーション本部を設置してデジタル化をより一層進めている。

 門脇氏は、「10年前より、オープンイノベーションを推進し、パートナー企業や国内外のスタートアップとの連携による新たなビジネスの共創に取り組んでいます。10年前より社内に専門部署を設置し、データ分析・活用を行っており、2000年代前半からICTを活用したワークスタイル変革も積極的に推進しています。今後は、さらに最新技術を活用して、新たなサービスの創出や経営効率化など、攻めのITを強化していきます」と話す。その一環として、現在、IoT、人工知能(AI)、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)に取り組んでいる。

 IoTの取り組みとしては、もともと所有していた自社設備のバリューチェーンに関わる故障データを活用しながら、まずは人が目検、点検していたところをIoT化することで自社の効率化を図った。次に、予見できるようなノウハウを蓄積することで故障の予知ができるようになり、さらには、故障診断でお客さまへの付加価値サービスにつなげ、安心感を提供している。

 より身近なサービスとしては、家庭用給湯器の「OG Connect機能(※)」で、お風呂のお湯はりや床暖房の操作が、外出先からスマートフォンで遠隔操作できたり、スマートスピーカーで音声入力でき、入浴した時間や体脂肪も測定できるなど、IoTによって可能になった各種サービスを展開している。このサービスは事業部の商品技術開発部が推進し、そこから上がってくるデータを情報通信部が読み解くなど役割分担をしながら新たな事業を展開している。

 ※「ツナガル de 機能」として正式にリリース(機能はそのままで名称を変更)

 AIの取り組みとしては、2018年7月にAI、IoT、位置情報を活用した見守りサービス「いつもちゃんとまもるくん GPS BoT」の販売を開始。こちらはオープンイノベーションの取り組みで、既にAIサービスを進めている会社の技術と連携して素早くスタートしている。また評価の結果使いやすいと判断した米国DataRobotのAIプラットフォームを活用して、2018年秋より、大阪ガスの電気加入者と「住ミカタ・プラス」加入者を対象に、ガス・電気使用量の分析結果をもとに、省エネアドバイスコンテンツを提供するサービス「エネくらべ」の提供を開始している。

 RPAの取り組みとしては、GHP定期点検の研修処理業務、開閉顧客情報のシステム入力業務、需要予測データから分析レポートを作成する業務などで活用。門脇氏は、「オージス総研に設置したRPAセンターによる一元管理でノウハウを蓄積。RPAの適用範囲は、今後も拡大を進める計画です」と話す。

 「以前よりデジタルワークプレイスを構築し、ペーパーレス化や仮想デスクトップの導入、モバイル活用などで、働き方改革を推進してきました。災害発生時でも最短で現場に対策基地を設置して、迅速に対応することができたのは、強靭(きょうじん)なITインフラを構築していたからではないかと考えています。またあらゆる社員が自分の業務を客観的判断できるように、データ分析力向上のプログラムを、延べ1000人以上が受講しています。今後もオープンイノベーションやデジタル化など、さらにデータを活用してイノベーションを推進してまいります」(門脇氏)

チームジャパンで日本の空を世界一のドローン市場に

投資家/Drone Fund 代表パートナー 千葉功太郎氏

 クロージングセッションには、投資家/Drone Fund 代表パートナーの千葉功太郎氏が登場。「空の産業革命、オープンイノベーションで世界をリード」をテーマに講演した。Drone Fundは、ドローン関連のスタートアップに投資する専業ファンドとして、2017年6月に設立。大企業から投資用の資金を集め、国内外の有力なドローン関連のスタートアップに投資をし、投資家とのオープンイノベーションの場を構築している。

 千葉氏は、「ドローンが登場する以前、空撮をしたいときには、ヘリコプターを借りなければならず、1カット撮影するだけでも数十万円のコストがかかっていました。ドローンの登場で、十数万円で購入し、安全に飛ばせる技術と知識があれば、4Kのフルデジタル映像を、簡単かつ低コストで撮影できる時代になりました」と話す。

 Drone Fundでは、ドローン前提社会を創ることを目指しているが、現在は前提ではなく、「物珍しい」という状況である。千葉氏は、「インターネットも20年前は物珍しい技術でしたが、現在では当たり前の技術になっています。ドローンも同じで、インターネットのときよりも短期間で、同じ状態になると確信しています。2025年には、たくさんのドローンが東京の上空を飛び交っているという予想図も描いています」と話す。

 ドローン前提社会のためには、法整備や技術的な問題はもちろん、運行安全管理や航空管制システムの構築など、さまざまな課題があるが、日本政府および関連企業では、2025年に向けて、全ての課題の解決を目指している。イノベーションは、実現困難なことが多いが、ドローンやエアモビリティの世界は、国と民間企業が足並みをそろえ、具体的なロードマップも公開されている。

 具体的なロードマップとしては、2020年にドローンを使った観光体験、2021年にスマートスピーカーと連動したホームドローン、2024年に都市型のドローン基地、ドローンによる子供の見守りサービス、CtoCの宅配、ペットの散歩、自動追尾型日傘などが計画されている。そして2025年、本格的なエアモビリティ社会が到来する。

 千葉氏は、「2022年には、ナンバープレートを付けて行動を走ることができるホバーバイクの販売をALI社が目指しています。単に公道を走るだけでなく、災害現場や農地、工事現場など、さまざまな場所での利用が期待されています。また2020年には、カーゴ型無人エアモビリティである米セイバーウィングエアクラフト社の「Draco」を福島から米国まで飛ばす実験も計画されています」と話す。

 さらに2025年には、宅配事業会社における24時間対応の中間物流やドローンタクシー、幼稚園の送迎サービスなども計画されている。2018年7月には、ドローン前提社会とエアモビリティスタートアップを大企業とともに支援することを目的とした「Drone Fund 2号」の設立を発表。ファンド総額は30〜50億円で、年内をめどに資金調達を完了したいと話す。

 千葉氏は、「単に投資をするだけでなく、日本国内およびアジアの研究者との共同研究を推進することを目的にリバネス社と提携しました。また、知的財産保護を目的に、戦略的なグループ会社であるDrone IP Labを設立しています。国内では切磋琢磨(せっさたくま)し、グローバルで戦うときにはチームジャパンとして協力し、日本の空を世界一の市場にすることを目指しています」と話している。

大企業でなくても使える電子取引「Tradeshift」

トレードシフトジャパン ゼネラルマネジャー 菊池孝明氏

 セッション1には、トレードシフトジャパン ゼネラルマネジャーの菊池孝明氏が登場。「今、取り組むべきデジタル変革――世界に広がる電子取引のネットワーク」をテーマに講演した。

 市場規模14兆円のB2C市場は、Eコマースにより電子化されている。一方、市場規模280兆円のB2B市場は、見積書や請求書など、紙の文化である。菊池氏は、「郵送された請求書をスキャン保存したり、RPAでデータを自動入力したりしていますが、これは一部のプロセスの置き替えにすぎません。置き換えではないデジタル改革が必要です」と話す。

 例えば、カメラは約150年間アナログだったが、30年前にデジタル化された。フィルムはSDカードに変わり、紙焼きすることもなくなり、枚数の制約もなくなった。現在、写真撮影はデジタルカメラからスマートフォンに変化している。デジタル化により市場は10年で3倍以上に、モバイルシフトにより40倍以上になった。

 菊池氏は、「これは、もはや置き換えでも、自動化でもありません。まさに“デジタルファースト”です」と話す。日本政府では、2018年6月に、行政サービスの100%デジタル化を目指す「デジタルファースト法案(仮)」を策定することを発表している。菊池氏は、「世界も、日本も、電子商取引に向かっています」と話す。

 しかし、電子取引の実現には、お金がかかる、使い方が難しい、準備が大変などの課題があり、実現できたのは大企業だけ。電子取引を導入した 一般的な企業の電子化率は20%にすぎない。日本の99%は、中小規模の企業である。大企業でなくても使える電子取引の仕組みが求められている。

 トレードシフトのグローバル電子取引プラットフォーム「Tradeshift」は、世界190カ国、150万社が参加する無料で簡単に使える「B2BのFacebook」のようなサービス。取引したい企業にFacebookのように「つながり申請」を行い、申請が了承されると電子文書の送受信などの基本サービスが無料で利用できる。

 また「Tradeshift AppStore」で、有償・無償のアプリをダウンロードすることも可能。既存のSAPや勘定奉行、フリー会計、PayPalなどの業務アプリと連携することもできる。菊池氏は、「デジタル変革に取り組む目的は、競争優位の構築です。トレードシフトでは、競争優位の構築を目指す企業を全力で支援していきます」と話している。

アナリティクスの3つの壁を打ち破るクリックテック

クリックテック・ジャパン カントリーマネージャー 北村守氏

 セッション2には、クリックテック・ジャパン カントリーマネージャーの北村守氏が登場。「デジタル変革で求められるアナリティクスの実現にむけて」をテーマに講演した。北村氏は、「ビジネスユーザーが新しい動向を発見していくことが、デジタル変革につながります」と話す。

 ある調査では、2019年までに、ビジネスユーザーがセルフサービス・ツールを用いて生成する情報分析の量は専任のデータ・サイエンティストが生成するものを上回るとの見解を発表している。しかし、ここには「データアクセスの壁」「アナリティクスの壁」「データリテラシーの壁」という3つの壁が存在する。

 1つ目のデータアクセスの壁を解決できるのが、連想エンジン型ビッグデータインデクシングで、これにより、企業内外に点在するデータソースを簡単かつ迅速に分析対象に取り込むことが可能になる。データマネジメントの準備時間を圧倒的に短縮できる。

 北村氏は、「2年以内に、あらゆるデータベースに連想エンジン型ビッグデータインデクシングを対応する予定です」と話す。また2018年にPodium Dataを買収し、2019年中にクリックテックの製品と統合する計画という。さらに、IoTリアルタイム分析のQlik Coreもリリースされている。

 2つ目のアナリティクスの壁は、人工知能(AI)によりアナリティクスをサポートする。具体的には、コグニティブエンジンにより分析そのものを自動化・高度化する。拡張知能が推奨するチャートを選択することで、データ分析そのものに取り組むことができる。「ただし、人間が判断する余地を残したAIを提供します」と北村氏は言う。

 分析作業が自動化されれば、より多くの分析結果がもたらされ、データを読み、分析し、議論する能力が求められる。これが、3つ目のデータリテラシーの壁である。全世界で独自にアンケートをしたところ、データリテラシーを備えていると回答した日本人は6%にすぎず、中国11%、インド45%を大きく下回った。その原因の1つに教育の問題もある。

 そこでQlikでは、製品中立的な「データリテラシープログラム」の提供を2018年5月より開始している。現在は英語版だけだが、2018年中には日本語化される予定だ。北村氏は、「デジタル変革の実現には、3つの壁を払拭できるBIツールが不可欠です。クリックテックに興味を持ってもらえたら、ぜひ問い合わせをしてください」と話している。

数カ月かかる開発を数週間で実現できるローコード開発

OutSystemsジャパン マーケティング マーケティングマネージャー 山之内真彦氏

 セッション3には、OutSystemsジャパン マーケティング マーケティングマネージャーの山之内真彦氏が登場。「デジタル変革のためのアプリケーション開発の現状」をテーマに講演した。OutSystemsは、ローコード開発プラットフォームと呼ばれるソリューションを全世界で約1000社、日本国内で約90社に提供している。

 OutSystemsが毎年作成している、116カ国、3500人のITプロフェッショナルに調査したレポート「アプリケーション開発の現状2018」では、「アプリケーション開発のニーズが史上最高」「開発者不足によりシチズンデベロッパーの数が急増」「相変わらずITのバックログが多い」「アジャイルとDevOpsはまだ発展途上」「顧客中心のITプラクティスが増えている」という5つの調査結果のポイントが公開されている。

 デジタル変革において、ソフトウェア開発は重要な位置付けになる。ビジネスには、スピード、機敏性、アジリティが必要。何年、何カ月かけてソフトウェアを開発する時代は終わり、必要な人が必要なアプリケーションを作る時代である。それでは、なぜいまローコード開発なのか。

 山之内氏は、「ソフトウェア開発は、世界でもっとも手作業のインダストリーです。そのため開発したソフトウェアは属人化し、ブラックボックス化する傾向にあります。そこで、ソフトウェア開発を自動化して、中身が分かるローコード開発が有効になります」と話す。

 OutSystemsのローコード開発プラットフォームの特長は、「ビジュアルでフルスタックな開発」「全てのタッチポイントへの導入を実現」「フルライフサイクルに対応」の大きく3つ。これまで数カ月かかっていた、ボットやIoTなどを活用したモバイルアプリやWebアプリを数週間で開発可能。開発、導入、監視、管理のライフサイクルも管理できる。

 「アプリケーション開発の現状2018レポート、およびローコード開発プラットフォームのトライアル版は、OutSystemsジャパンのWebサイトから無償でダウンロードすることができるので試してみてください」(山之内氏)

世界初、東京大学と「営業を科学」する共同研究を推進

ソフトブレーン 取締役 本社営業本部長 兼 人財開発室長 長田順三氏

 セッション4には、ソフトブレーン 取締役 本社営業本部長 兼 人財開発室長の長田順三氏が登場。「顧客データを活用する科学的営業マネジメントのススメ“営業を科学する”」をテーマに講演した。

 ソフトブレーンでは、世界で初めて東京大学と「営業を科学」する共同研究を推進している。生産年齢人口が下降の一途をたどる現在、「収益性向上」「売上・シェア拡大」という日本企業が抱える経営課題は10年以上変わっていない。

 長田氏は「現在の働き方改革は、残業時間の削減ばかりに注目が集まっています。しかし労働時間を短縮しても売上は上がりません 。売上向上のためには、営業生産性の向上が必要です」と話す。営業生産性向上には、「コア業務への注力」「業務効率化」「ボトルネックの可視化と改善」の3つのテーマがある。

 コア業務への注力では、「いかに会議、打ち合わせ、共有化の時間を短縮するか」「いかに資料作成を短縮するか」「いかに移動・待ち時間を有効活用するか」が重要になる。コア業務(顧客接点業務)と売上は相関する。そこでコア業務に注力し、アポ取り、経費精算などのノンコア業務は内勤のアシスタントに任せることが有効になる。

 長田氏は、「CRM/SFAで商談情報を共有しておけば、スマートフォンを活用して、商談報告の合間に“この件よろしく”とメッセージを送るだけでアシスタントに頼めます。頼めるようになるので、営業担当者の武器としてさらに活用が進みます」と語る。

 また業務効率化では、入力を1回にし、顧客情報を一元化して、シームレスな連携をすることで、ワンクリックで「情報武装&報告・共有」が可能。PDCAサイクルがつながり、業務効率化・情報武装化を実現できる。

 最後にボトルネックの可視化と改善では、営業の見える化・効率化により、「売れる仕組み」を実現する。そのための仕組みが、Tableauの技術を採用した「eセールスマネージャーRemix Analytics(eセールスマネージャー)」である。

 長田氏は、「eセールスマネージャーは、誰でも簡単に分析できる見やすいビジュアルで、PDCAサイクルを高速化できます。使い勝手がいいCRM/SFAとして、導入するだけでなく、定着率96%を目指し、日本の営業文化を熟知した専門チームがバックアップします。現場を楽にしながら生産性を向上できるのが最大のポイントです」と話している。

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