第5回:自問自答の魔法「スモール・ハピネス」で仕事も生活もポジティブになる?!(2/2 ページ)

» 2020年08月25日 07時02分 公開
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 実際にはまったく工夫や苦心などしていない場合はどうなるか。その場合も自問自答の型を守ればよい。質問する側の自分が好奇心をもって「どうしたの、何か工夫した」と尋ねるようにすれば、仕事をする側の自分は工夫をしないと格好がつかなくなり、そこから工夫を始めるからだ。作業の最中に自問自答を始めれば、いつでも挽回できる。唯一のポイントは、自分が自分に対する好奇心を持つことである。

 そして対自分の好奇心の鍵を握るのは質問で、それはWHATとWHYとHOWに絞られる。上記で用いた「Q1:何をしていた」はWHAT(行動)で、 「Q2:何のために」はWHY(理由・目的)で、「Q3:どのように」はHOW(方法)である。すなわち、誰でも知っているWHAT、WHY、HOWの3ワードが、自分への好奇心を示し、意味とスモール・ハピネスにつながる答えを誘い出す魔法の言葉だ。

 ただ、ほとんどの人は3ワードの魔力に気付いていない。というのも、3ワードは、作業中の自問自答の中で使うことで初めてその魔法の力を表すのだが、そんな風に3ワードを使う人がほとんどいないからだ。

 自問自答は、作業中であればいつでもどこでも実施できる。朝でも夜でも、オフィスでも現場でも自宅でもよい。3ワードの自問自答を作業中に使っていると、いやでも好奇心を刺激し、意味を考えるようになる。仕事に意味を見いだすように、意味のある仕事をするように、仕事で意味をつくるように、自分で自分を誘導していく。

 意味とは、何かと何かがつながることなので、それによって生じるスモール・ハピネスに直結する。意味は即スモール・ハピネスだ。逆に、仕事において意味のないことをやらされるほど不幸なことはない。そんな不幸には暇を告げたい。意味のない作業を、不幸とも感じなくなっている感覚まひ状態からは即刻脱したい。

 ところで、自問自答には、仕事の意味への気付きや、スモール・ハピネスを生み出す効果に加えて、一つ「おまけ」が付いている。それは「もう一人の自分」を生み出す可能性だ。自問自答では、自分は質問者と回答者という一人二役をこなしている。この内、回答者は作業者という普段の自分だが、質問する側の自分は、普段の自分とは異なる「もう一人の自分」だ。「もう一人の自分」には手あかがついていないから、新しくデザインできる余地がある。

 例えば、上記の例における「もう一人の自分」は、WHATやWHYやHOWなどを使って質問するちょっと理屈っぽい「ロジカル」な「もう一人の自分」だった。

 今回の締めくくりに、タイプの異なる「もう一人の自分」を紹介しよう。

 しばらく前(といっても感染症の自粛期間中に)居酒屋探訪家の太田和彦さんがどこかのラジオで、居酒屋で一人で飲むときは、いろいろなことを思い出して、反省したり、後悔したりしながら飲んでいるが、そのうちに、これでいいんだという自己肯定の境地にいたる、といった趣旨の話をしていた。これにヒントを得て、しかし、お酒の力を借りても借りなくても、自己肯定に至るような自問自答を工夫してみよう。

 それには、「もう一人の自分」にこんな注文をつければよい。「質問はしてよいが、口答えはしない、批判めいたことも言わない、答えは全てそのまま受容せよ」と。自問自答のタイミングは作業中でもいいが、その日の晩に振り返りながらの自問自答でもよい。

 いずれにしても、「もう一人の自分」が口答えせずに、うん、うん、と聞いてくれると、回答者の自分は何を言っても受け入れられることが了解できて、何でも言えるようになり、自分への肯定的な気持ちが、次第に高まってくる。いろいろあるけどまあいいじゃないか、よくやっているよ、すごいよ、いろんな人から必要とされているね、みたいに。「それで、それで」の好奇心の合いの手でも入れば、さらに肯定感が高まる。居酒屋で一人酒をしながらの自問自答であれば、そこでお勘定にすればよい。

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著者プロフィール:キャメル・ヤマモト

本名、山本成一。学芸大学付属高校卒、東京大学法学部卒業後、外務省に入省。エジプトと英国留学、サウジアラビア駐在等を経て、人材・組織コンサルタントに転身。外資系コンサルティング企業3社を経て独立する。専門は企業組織・人材のグローバル化・デジタル化プロジェクト。

また、ビジネスブレークスルー大学と東京工業大学大学院でリーダーシップ論の講義を担当。人材・組織論を中心に20冊余りの著作がある。近著は『破壊的新時代の独習力』(日本経済新聞出版)


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