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» 2020年12月09日 07時12分 公開

最先端テクノロジーの起源は仏具なぜ島津製作所はノーベル賞企業になれたのか〜歴史から学ぶ成長する企業の必須要素(2/2 ページ)

[鵜飼秀徳,ITmedia]
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二代目源蔵銅像

 明治期には、初代源蔵の息子である梅治郎(二代源蔵)によって、現代生活に欠かせないアイテムが開発、商業化されている。それがバッテリー(蓄電池)だ。バッテリーを搭載する製品は、自動車やバイクはもちろん、ノートパソコン、スマートフォンなど、例を挙げればキリがない。近年は電気自動車が普及し出し、高性能バッテリーの需要は増している。バッテリーを世界で最初に発明したのはフランスの科学者、ガストン・プランテで1859(安政6)年のことであるが、プランテの原理を使って、日本で最初にバッテリーを開発したのが二代源蔵であった。

 このバッテリー開発が、島津製作所に大きな転機をもたらした。折しも、満州や朝鮮半島の権益を巡り、日露戦争に発展していた。当時の主戦場は「海(軍艦)」。ロシアが誇る太平洋艦隊と、日本海軍連合艦隊はほぼ互角であった。そこで、大海原の中でいかに敵艦の情報をつかみ、先手を撃つか。情報戦略こそが戦局の明暗を分ける時代になっていた。

 そこで連合艦隊の無線の電源として搭載されたのが「島津のバッテリー」であった。日本海海戦において、連合艦隊司令長官東郷平八郎は、「敵艦見ユ」(敵の艦隊が見えた)といち早く打電。迎え撃つ体制の連合艦隊は、常に風上に立って有利に戦いを進め、バルチック艦隊を撃滅させたのである。日露戦争における影の立役者が、島津製作所であったことはほとんど知られていない事実だ。 このバッテリー事業はその後、日本電池の創業につながる。現在、クルマのバッテリーで世界シェア2位を誇るGSユアサの前身企業の1社である。

島津製作所の創業の地に立つ島津製作所 創業記念資料館
人体解剖標本

 さらに島津製作所は当時、意外なものを手掛けていた。マネキンである。島津の源流は仏具業であることは先に述べた。そして、仏教関連産業が衰退し、教育用理化学機器の需要が高まる中で、人体模型が島津の手によって手掛けられていた。そこには仏具商時代の鋳物仏具という精緻なものづくり技術がベースにあった。それが西洋医学や学校における科学教育の発展とともに、人体模型という新たなる分野に昇華していったのだ。

 1923(大正12)年9月に起きた関東大震災後、日本は生活物資の国際支援を受けることになった。その中にアメリカから送られてきた大量の古着があった。その結果、洋服文化が一気に拡大した。

 そこで国内の繊維業界はせきを切ったように洋服製造に着手する。すると、販売促進用としてマネキンの需要も生まれた。島津製作所はいよいよ、自社製マネキン製造に打って出る決断をしたのだ。島津製作所は人体模型を基に改良に改良を重ね、ファイバー素材を用いたマネキン製造に成功する。この時、京人形にヒントを得たとされている。

 「島津のマネキン」はその後、ワコールグループのマネキン会社七彩などを誕生させる。国内マネキン企業25社のほとんどに島津製作所が関係しているといわれている。同社は「日本アパレル黎明期の黒子」なのだ。 

 仏具、気球、バッテリー、マネキン。全てが、脈絡のないようで、源流ではつながっている。時代の潮流をつかみ、自由な発想に基づいて、新しいものに果敢に挑戦する。この島津のものづくりの精神は、現代にもしっかりと受け継がれてきている。現在、島津製作所はグループ従業員1万3000人、連結売上高4000億円近い規模にまで発展している。2002年には社員の田中耕一氏がノーベル化学賞を受賞した。

 企業経営には未来志向は大事であるが、忘れ去られがちな「過去(先人)に学ぶ」ことこそが、今の経営者に求められていると思う。

 島津製作所の創業期における詳細は拙著『仏具とノーベル賞 京都・島津製作所創業伝』(朝日新聞出版、1400円)を手に取っていただければ幸いである。

著者プロフィール:鵜飼秀徳

1974年、京都市生まれ。大学卒業後、新聞・雑誌記者を経て、2018年にジャーナリストとして独立。「仏教界と社会との接点づくり」をテーマに活動を続ける。著書に『仏教抹殺』(文春新書)『ビジネスに活かす教養としての仏教』(PHP研究所)など多数。新刊に『仏具とノーベル賞 京都・島津製作所創業伝』(朝日新聞出版)。東京農業大学・佛教大学非常勤講師、一般社団法人「良いお寺研究会」代表理事。


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