創業者の経営哲学は「事業」「家庭」「自身」からなぜ島津製作所はノーベル賞企業になれたのか〜歴史から学ぶ成長する企業の必須要素(1/2 ページ)

印刷して社内の各所に張り出した経営哲学は、コーポレートガバナンスとして今に通じるものがあり、いかに3つの要素を大事にしてきたかが分かる。

» 2020年12月16日 07時08分 公開
[鵜飼秀徳ITmedia]
『仏具とノーベル賞 京都・島津製作所創業伝』

 近年、大企業で不祥事が相次いでいる。昨年のかんぽ生命保険と日本郵便による不正販売問題、2018年の日産カルロス・ゴーン会長の逮捕劇など、記憶に新しい。原因はさまざまであろうが、いま一度、企業は「原点」を見つめる必要があるように思う。

 企業の存在意義は、「社是」や「企業理念」に集約されている。しかし、社是を朝礼などで読み上げている企業はともかく、そらんずることができる従業員は、そうはいないのではないか。社是は、企業の在り方の指針であり、創業者の理念が込められていることもある。近年は、「社是」とは呼ばず、「企業理念」などとする企業も多い。

 たいていの社是は抽象的な表現であり、どの企業も、似たり寄ったりの内容である。

 例えば、稲盛和夫氏が名誉会長を務める京セラの社是は、「敬天愛人」。そこに説明が添えてある。「常に公明世代 謙虚な心で 仕事にあたり 天を敬い 人を愛し 仕事を愛し 会社を愛し 国を愛する心」。京セラの場合、社是とは別に経営理念が存在する。そこでは、「全従業員の物心両面の幸福を追求すると同時に、人類、社会の進歩発展に貢献すること」としている。

 では、不祥事のあった企業の社是とはどんなものか。日産は社是にあたる「ビジョン」の中で、「人々の生活を豊かに」を掲げる。

 優良企業だろうと、不祥事を起こした企業だろうと共通するのは、「社会のお役に立ちます」だ。不祥事を起こした企業はきっと、社是が形骸化していたのだろう。

 社是の歴史をさかのぼれば、社寺建設を手掛けた金剛組が定めた「職家心得之事」が古い。金剛組の創業はなんと西暦578年(創業から約1440年)。世界最古の企業だ。金剛組は、四天王寺などの数多の古刹を手掛けてきた。職家心得之事は江戸時代中期、第32代金剛喜定の遺言である。そこには、以下のような16カ条が記されていた。

一.儒仏神三教の考えをよく考えよ

一.主人の好みに従え

一.修行に励め

一.出すぎたことをするな

一.大酒は慎め

一.身分に過ぎたことはするな

一.人を敬い、言葉に気をつけよ

一.憐れみの心をかけろ

一.争ってはならない

一.人を軽んじて威張ってはならない

一.誰にでも丁寧に接しなさい

一.身分の差別をせず丁寧に対応せよ

一.私心なく正直に対応せよ

一.入札は廉価で正直な見積書を提出せよ

一.家名を大切に相続し、仏神に祈る信心を持て

一.先祖の命日は怠るな

 第一に、儒教や仏教、神道の理念を大事にせよと説き、最後にも先祖の命日には感謝の念をささげよとしている。興味深いのは「入札は廉価で正直な見積書を提出せよ」。仮に顧客を欺いて利益を上げたとしても、お天道様がちゃんと見ていて、結局は事業に失敗するということだろう。これを仏教では「因果応報」という。この社是は現在の金剛組でも、翻訳し直され、受け継がれているという。

 日本における資本主義の祖と呼ばれ、2024年度から一万円札の肖像に登場する渋沢栄一も、やはり企業活動における精神論を大事にした人物だ。例えば「士魂商才」を提唱した。直訳すれば、商売には、商才に加えて武士の魂が必要であるということ。分かりやすく言えば、商売においてひきょうな手段は使うな、ということになろう。

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