第2回 ドラッカー「上司の仕事は部下がやりやすくすること、部下の仕事は上司がやりやすくすること」ドラッカーが教える「上司から評価される仕事術」(2/2 ページ)

» 2021年08月11日 07時01分 公開
[山下淳一郎ITmedia]
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 それ以来、ドラッカーは、お客さまが社内で使いやすいような形式でレポートを提出するように工夫した。それ以来、頭取から「とても使いやすくなって助かっています」と言われるようになった。

 「あなたのやりやすいように私の仕事のやり方を改善します!」という話だから、上司はあなたのアクションを歓迎するはずだ。ぜひあなたも上司に、「私がやっている仕事のやり方で、しっくりくるものと、しっくりこないものを教えてください。しっくりくるものはさらに増やし、しっくりこないものは改善します」と直接聞いてみてほしい。上司にもあなたにも、計り知れないメリットが生まれる。

 上司との間によい関係を築くということは、「自分がやりやすいやり方を上司に押し付ける」のではなく、「上司にとってしっくりくるやり方を工夫して仕事にあたる」ということだ。

上司の強みを生かす

 上司との間に信頼関係を築くために、次は何をすればいいのだろうか。

 ドラッカーはこう言っている。

第3に、上司の強みを生かすことである。部下の仕事は、上司がそれぞれの仕事のやり方によって成果をあげられるようにすることである。強みを発揮させ、弱みを意味なくさせることによって、上司が縦横無尽に働けるようにすることである。ピーター・ドラッカー

 強みとは、秀でているもの、得意なこと、得意なやり方のことだ。それは、人それぞれ違う指紋のようなもので、仕事に就くはるか前に形成されている。しかし、強みを発揮させ、弱みを意味なくさせることによって、上司が縦横無尽に働けるようにするとはいったいどういうことなのだろうか。部下の務めは何だろうか。

 ドラッカーはこう言っている。

あるがままの上司が、個性ある人間として存分に仕事ができるようにすることが部下たる者の務めである。ピーター・ドラッカー

 それは、上司が普段行っている仕事のやり方に合わせようというだけのことだ。右手と左手が同じように使える両利きという人はいない。誰もが右利きか左利きかのどちらかだ。同じように、何かを伝える際は文章で伝えることを好むか、口頭で伝えることを好むか。両利きの人はいない。書き手か話し手のどちらかだ。また、何かを知る際は、直接話を聞くことを好むか、文章で読むことを好むか。これも両利きの人はいない。聞き手か読み手のどちらかだ。

 あなたの上司が聞き手であれば、上司の机に資料を置いてきてはいけない。直接会って、説明をしてから資料を置いてこなければならない。それが、その上司にとってしっくりくるやり方だからだ。あなたの上司が読み手であれば、説明抜きに資料を机の上に置いておいても大丈夫だ。黙ってもその資料を読み込んでくれるからだ。それが、その上司にとってしっくりくるやり方だからだ。

 同じように、人にはそれぞれ特有のリズムがある。朝型の人、夕型の人がいる。あなたの上司が、朝は誰にも邪魔されずに、やりたい仕事に集中したいという朝型の人であれば、上司のところに行くのは午後になってからの方がよい。さて、上司の強みを生かすためにはどうすればいいのだろうか?

 ドラッカーは「臆せず上司に直接聞こう」と言っている。決して難しいことを聞くわけではない。性格を聞くのではなく、好む行動を聞くだけでいい。価値観を聞くのではなく、いつもやっている方法を聞くだけでいい。上司の人間性を理解するのではなく、いつも行っている習慣を確認するだけいいのだ。以下の通り、具体的な例を紹介したい。

1、インプットは

  • 文章の方がいい
  • 口頭の方がいい

2、アウトプットは

  • 文章の方がいい
  • 口頭の方がいい

3、学び方は

  • メモをとる方がいい
  • 聞く方がいい

4、仕事の進め方は

  • 人と組んだ方がいい
  • 1人の方がいい

5、力が発揮されるのは

  • チームの一員として働くのがいい
  • 助手役として働くのがいい

6、力を発揮する環境は

  • 緊張や不安があった方がいい
  • 安定した環境の方がいい

7、得意な役割は

  • 意思決定者としての方がいい
  • 補佐役としての方がいい

8、実行の方法は

  • 教えるときの方がいい
  • 相談役の方がいい

9、力を発揮するのは

  • 時間がなくギリギリの時
  • 余裕をもって取り組んでいる時

10、仕事のやり方は

  • 十分考えてから始める方がいい
  • まずは始める方がいい

11、効率が上がるのは

  • 朝の時間帯の方がいい
  • 夜の時間帯の方がいい

12、文章を書くのは

  • 下書きしてからの方がいい
  • 完璧な文章を一つ一つ書く

13、スピーチする時は

  • 原稿を用意する方がいい
  • 何も用意しない方がいい

14、仕事ができるのは

  • 詳細な筋書きがある方がいい
  • 詳細な筋書きはない方がいい

 例えば1のインプットで口頭(音声情報)の方がしっくりくる人は、「メールを送るだけじゃなくて、ちゃんと言ってくれないと分からないじゃないか」と言ったりする。あなたの上司はどちらだろうか?文章の方がいい上司は、「いちいち電話しなくていい」と思っているかもしれない。

 ここに挙げただけでも14もの違いがある。どれも正しいか、間違いかではなく、人はさまざまだ、ということなのだ。

 私はこれまでいろいろな会社で研修を行ってきて、参加者にこのことを質問したが、半分以上の人は上司と相違点があることが分かった。つまり、2回に1回は上司かあなたかがストレスを感じているということだ。

 部下のあなたがしっくりこないと感じる分には問題ない。だが、上司に「しっくりこない」という実感が積み重なっていくと、あなたは正しく仕事をしているのにもかかわらず、「いまひとつ仕事ができない」という誤解を招きかねないのだ。これが「きちんと仕事をしているのに評価されない」と感じる原因の1つかもしれない。

 ぜひ、14個を上司と確認しあってほしい。お互いの相違点を理解しあい、上司にしっくりくるように組み立てていくことで、上司の個性、強みを生かしていくことができるはずだ。上司との間に信頼関係を築くために、ぜひ実践することをお薦めしたい。

著者プロフィール:山下淳一郎 ドラッカー専門の経営チームコンサルタント

ドラッカー専門の経営チームコンサルティングファーム トップマネジメント

東京都渋谷区出身。ドラッカーコンサルティング歴約33年。外資系コンサルティング会社勤務時、企業向けにドラッカーを実践する支援を行う。中小企業の役員と上場企業の役員を経て、ドラッカーの理論に基づいた経営チームをつくるコンサルティングを行う、トップマネジメントを設立。現在は上場企業に「経営チームの研修」「経営幹部育成の研修」「後継者育成の研修」を行っている。 

著書に『ドラッカーが教える最強の後継者の育て方』(同友館)、『ドラッカー5つの質問』(あさ出版)、『新版 ドラッカーが教える最強の経営チームのつくり方 』(同友館)、『日本に来たドラッカー 初来日編』(同友館)、『ドラッカーが教える最強の経営チームのつくり方 』(総合法令出版)、『ドラッカーのセミナー』(Kindle)、『ドラッカーが教える最強の事業承継の進め方』(Kindle)がある。主な連載に『ドラッカーに学ぶ成功する経営チームの作り方』(ITmedia エグゼクティブ)がある。ほか多数。


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