「DX=ビジネスモデルの進化」を成し遂げられるリーダーとは?ビジネス著者が語る、リーダーの仕事術(2/2 ページ)

» 2022年06月02日 07時09分 公開
[小野塚征志ITmedia]
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DXの実現に向けたアプローチ

 DXの実現に向けては、「目指す姿の構想」「戦略の策定」「実行計画の作成」「推進体制の構築」の4つのステップがあります。

DXの実現に向けたアプローチ

 「Step1 : 目指す姿の構想」では、DXを実現することで、誰に、どのような価値を、どうやって提供する企業を目指すのかを具体化します。DXは「デジタル技術を活用したビジネスモデルの革新」です。ビジネスモデルを革新することが目的ではなく、目指す姿を実現するために、ビジネスモデルを革新するのです。デジタル技術を活用しても、ビジネスモデルを革新しても、企業としての目指す姿の実現に結び付かないのだとすれば意味がありません。従って、まずはその目指す姿を描くことが肝要です。

 「Step2 : 戦略の策定」では、目指す姿と現状の間にあるギャップを把握した上で、DXを実現することによりそのギャップをどのように解消するのかを思索します。DX戦略とは、その目指す姿の実現に向けたシナリオを指します。

 「Step3 : 実行計画の作成」では、目指す姿の実現に向けて、誰が、何を、いつ実行するのかを定めます。短期的な成果の獲得が見込めるクイックヒットを先行的に実施するなど、「成功しつつあること」を社内外に発信しやすい計画とすることもポイントです。

 「Step4 : 推進体制の構築」では、既存事業の維持・強化と、DXによるビジネスモデルの革新を両立できる組織体制を作ります。DXの実現に向けた取り組みを加速化するため、PDCAサイクルを高速に回せる仕組みを構築することも大事です。

 以上4つのステップは、DXの実現に向けた初期の戦略・体制構築に過ぎません。以降、実行計画に定めた具体的な取り組みを速やかに推進していくことが求められます。

 事業環境は常に変化しています。デジタル技術の進歩と活用の拡大を契機とした「DX時代ならではのビジネス」であれば、その変化の幅も大きくなります。一度定めた目指す姿、戦略、実行計画、推進体制を金科玉条のように守るのではなく、柔軟に見直すことで、変化に即応することも重要です。

リーダーに求められるマインドセット

 DXは、単なるデジタル化ではありません。目指す姿の実現に向けてビジネスモデルを進化させるということです。このパラダイムシフトを成し遂げるためには、ビジネスに対するマインドセットも改める必要があります。

 従来型のビジネスでは、モノやサービスの提供を通じて対価を得ることが一般的でした。誤解を恐れずにいえば「モノやサービスありき」だったわけです。このマインドセットを「価値志向のビジネスデザイン」に変えることが大切です。

 日本企業は、何か新しいことを始めようとする際にも類似の先行事例を探してしまう傾向があります。欧米の先進的なビジネスモデルを日本に持ち込んで展開しようとする例が多いのはそのためです。しかし、DXでは他社に先んじて新しいビジネスモデルを構築することが期待されます。「イノベーター的思考」で非連続な成長にチャレンジすることを志すべきです。

 短期での投資回収、個別・現場単位での改善を重視するところも日本企業の特徴といえるでしょう。Amazonのように、創業から何年も赤字を計上し続けるようなビジネスは許容されにくいわけです。とはいえ、Amazonがそうであるように、「長期的・俯瞰的な経営判断」なくしてDXは成し得ません。

 新しいビジネスを展開しようとするにあたって、戦略や実行計画を具体化することは大事です。しかし、「DX時代ならではのビジネス」を取り巻く事業環境は、時々刻々と変化することが予想されます。「アジャイルでの推進」によって、この変化に迅速かつ柔軟に対応すべきです。

 そして、最も重要なことは、DXへの意志です。「社長が言っているから」「DXがトレンドだから」「経済産業省が強力に進めようとしているから」という成りゆきまかせの姿勢では、ビジネスモデルを進化させることなどできるわけがありません。「DXによる進化への強い意志」は、リーダーに求められる必須のマインドセットといってよいでしょう。

拙著をご高覧いただき、「強い意志を持ってDXを成し遂げるリーダー」が増えることを切に願っています。

著者プロフィール:小野塚 征志

株式会社ローランド・ベルガー パートナー

慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修了後、シンクタンク、システムインテグレーターを経て、欧州系戦略コンサルティングファームのローランド・ベルガーに参画。

長期ビジョンや経営計画の作成、新規事業の開発、成長戦略やアライアンス戦略の策定、構造改革の推進などを通じてビジネスモデルの革新を支援。

内閣府「戦略的イノベーション創造プログラム スマート物流サービス 評価委員会」委員長、経済産業省「フィジカルインターネット実現会議」委員、経済産業省「Logitech分科会」常任委員、国土交通省「2020年代の総合物流施策大綱に関する検討会」構成員、経済同友会「先進技術による経営革新委員会 物流・生産分科会」ワーキンググループ委員、ソフトバンク 5Gコンソーシアム アドバイザーなどを歴任。

近著に『サプライウェブ−次世代の商流・物流プラットフォーム』(日経BP)、『ロジスティクス4.0−物流の創造的革新』(日本経済新聞出版社)など。


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