「今回の企画、自信があったがちゃんと伝わらなかった」。「そもそもプレゼンのコツが分からない」。こう感じている人は多いだろう。プレゼンで結果を出すにはどうすればよいのか。
ライブ配信で開催されているITmedia エグゼクティブ勉強会に、トッププレゼン・コンサルタントで、ウォンツアンドバリュー 取締役の永井千佳氏が登場。「明日から使える 心を動かすプレゼンの技」をテーマに講演した。永井氏は、Why(なぜ)、How(どうやって)、What(何を)の順番で語ることで、相手の共感を得ることができ、結果を出せる、という。
「ビジネスでは、どんなに上手に話をしても、どんなにいい提案でも、聞き手の行動につながらなければ意味がありません。そのためには、まずWhyを明確にして、確実に記憶されるメッセージで、聞き手目線で首尾一貫して伝えることが大事です」(永井氏)
聞き手の心を動かすプレゼン技は、才能ではなくスキルなのだ。スキルは、学べば誰でも習得できる。ポイントは、以下の3つ。
1、Whyから語れ
2、確実に記憶されるメッセージづくり
3、心を動かす資料の作り方
永井氏は、「この3つを学べば、聞き手が共感し、結果を出すプレゼンができるようになります」と話している。
新商品のコピーで、「業界最軽量のカメラを新発売」「扉が開いていたらスマホに通知する冷蔵庫」「プロがこだわりぬいた商材を使った一品」などを目にすることはないだろうか。どれも真心こめて開発された商品だ。しかし残念ながら心に残らないのでスルーされがちである。結果、膨大なライバルたちのメッセージに埋もれてしまい、商品は売れない、という悪循環になる。
永井氏は、「相手が共感するWhyとは、相手にとっての大義名分です。Whyから話せば相手の心が突き動かされ、相手は行動してくれます。では、どうすればそのようなメッセージが作れるのでしょうか。それは、Why、How、Whatの順番で語ることです。実はWhyから語るのは、それほど難しくはありません。」と話す。
例えば、小さな会社で社員が社長に自動お掃除ロボットを買ってほしいと提案する場合、「このお掃除ロボットはすごい高性能です。吸引力が世界一で、楽にゴミが取れます。だから欲しいんです」と言うだけでは、上司は心が動かない。「本当に必要なの」と言われてしまう。
Whyから語る場合はこうなる。「(Why→)社長は定時退社を推進していますよね。(How→)お掃除ロボットを買えば、自動化で時短できますよ。(What→)時短すれば定時退社に貢献できます」。こうして大義名分から話せば、聴き手(社長)の心が動き、「じゃぁ、買おうか」と言いたくなる。大義名分を共有することで、相手の心が動き、行動に移しやすくすることができるのだ。
「伝わるメッセージと伝わらないメッセージの違いを知る上で、参考になるのがサイモン・シネックのゴールデンサークル理論です。ゴールデンサークル理論は、内側からWhy→How→Whatという3つの円を同心円上に重ねたものです。伝わるメッセージはWhyから語りますが、伝わらないメッセージはWhatから始めがちです」(永井氏)。
例えば、西武園ゆうえんちは、2021年のリニューアルで、「(Why→)日本のテーマパークはディズニー、USJだけではだめだ。豊かな選択肢が日本の経済成長期を支える。所沢の遊園地を持続可能なものにする」と大義名分から語ったことで、人々の共感を得ることができ、メディアに取り上げられ、認知度が大幅に向上した。
一方、「IoT技術を活用して、扉が開いていたらスマホに通知できる」という冷蔵庫がある。「IoT技術を活用して」はHow、「扉が開いていたらスマホに通知」はWhatである。それではWhyは何か。「出先でも扉が開いていることが分かる」だが、出先で分かっても扉を閉じられない。この場合、そもそもの出発点がHowの「IOT技術の活用」と、Whatの「スマホで通知」である。Whyがおまけ程度にしか語られていない。だから伝わらないのだ。
また現代は、SNSなどの口コミで商品が売れる時代だ。かつての「企業の方が情報を多く持っていて、消費者が知らない」という情報の非対称性は解消した。そのため、企業が事実ではない情報を流すと、口コミですぐに取り上げられてしまう。永井氏は、「現代では、誠実さと率直さは大きな武器になります。そのためにもWhy(大義名分)を明確にした上で、HowとWhatを首尾一貫して伝えることが必要なのです」と語る。
メッセージは作り方しだいで伝わり方が大きく変化する。メッセージを作る戦術は極めて大事である。
永井氏は、「あなたのアイデアは、どうすれば相手の記憶にねばりつくか。これは『Made to Stick』という本に書いてあります。チップ・ハースとダン・ハースの兄弟が書いている本で、『アイデアのちから』(日経BP)という日本語訳もあります。もし興味があればぜひ読んでみてください」と話す。
相手の記憶に粘りつくためには、以下の6つのポイントがある。
(1)単純明快
(2)意外性
(3)具体的
(4)信頼性
(5)感情に訴求
(6)物語性
(1)単純明快
いろいろ詰め込まず優先順位をつけ、シンプルなメッセージにする。ハリウッド映画では、ふわふわな企画段階でスポンサーを見つけ、巨額の制作費を確保しなければならない。そこで明確なコンセプト、中核メッセージが重要になる。例えば『エイリアン』は、「宇宙船を舞台にした『ジョーズ』」であり、『スピード』は「バスを舞台にした『ダイ・ハード』』である。明確なコンセプトでメッセージを絞り込み、伝えていくことが大事である。
(2)意外性
意外性は、メッセージの核を見極め、意外な点を探し、相手の推測をいったん壊した上で、相手の推測を修正することである。少年ジャンプの人気漫画は、毎回強敵を撃退するが、すぐに新たな敵が登場し、ピンチになり、次回号に続く。少年ジャンプの読者は、「この後どうなるの?何とか知りたい」と苦痛を感じて、次回号も買ってしまう。これは「隙間理論」とよばれる。人は知識に隙間を感じると好奇心が芽生え、知識の隙間を埋めたくなるのだ。そこで意外性によって隙間を相手に認識させ、好奇心をかき立てることが大事になる。
(3)具体的
具体的とは、メタファーを使い倒すことだ。先に紹介したエイリアンやスピードはまさにメタファーだ。メタファーを使えば、相手の記憶に粘りつくようになる。記憶はマジックテープに例えられる。マジックテープに密集している小さなフック1つ1つがメタファーであり、フックの数が多いほど記憶に引っ掛かるようになる。逆にメタファーがないと、抽象的すぎて記憶に引っ掛からないのだ。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
株式会社CEAFOM 代表取締役社長
株式会社プロシード 代表取締役
明治学院大学 経済学部准教授