心を動かすプレゼンの技 Whyから語れば人は心が突き動かされ行動する――トッププレゼン・コンサルタント 永井千佳氏ITmedia エグゼクティブ勉強会リポート(2/2 ページ)

» 2022年07月06日 09時54分 公開
[山下竜大ITmedia]
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(4)信頼性

 信頼性で分かりやすいのは、シナトラ・テストである。シナトラとは、米国の歌手であるフランク・シナトラのこと。彼の歌に「ニューヨークでうまくいけば、どこへ行ってもうまくいくさ」という一節がある。世界一競争が激しいニューヨークで成功すれば、どこでも成功は約束される。つまり、特定の場所での成功がその分野全体に通用する信頼性を確立できる、という意味だ。例えば、「このセキュリティソフトは防衛省で採用されています」と言われれば、「これは絶対大丈夫だな」と思う。「ここで使っているから大丈夫」と思わせることが大事になる。

(5)感情に訴求

 人は統計的な数字よりも、個人の感情に共感する。ある実験で、「1、エチオピアでは、1100万人の国民が緊急食糧援助を必要としている」という寄付金依頼メッセージと、「2、この寄付金は極貧生活を送り、深刻な飢えに脅かされているロキアという7歳の少女に寄付される」という寄付金依頼メッセージで、金額を比較してみた。合理的に考えると1、に寄付金が多く集まるはずだ。しかし結果は、数字を訴求した1、の平均寄付金額は1.14ドル、感情を訴求した2、は2.38ドルだった。

(6)物語性

 人は物語を聞くと、実活動と同じ脳の部位が呼び覚まされる。つまり物語は、相手に「行動の追体験」をさせる。ファストフードチェーンのサブウェイは、脂肪分が6グラム以下の商品を7つ提供する「7 under 6」キャンペーンを実施したが、成果はほどほどだった。この時、18歳で体重160キロのジャレド君が7 under 6キャンペーンの商品だけを食べ続け、110キロの減量に成功した。そこでサブウェイがこの実話を新たにキャンペーンで打ち出したところ、大成功を収めた。

 「この話には、6つのポイントが完璧に当てはまっています。サブウェイで減量、という単純明快さ。それがファストフードである意外性。具体的に履けなくなったズボンを見せながら体験そのものを語る信頼性。サブウェイは命の恩人であるという感情への訴求。障害を乗り越え、勝利したという物語性もあります。皆さんも身近でこういうストーリーを見つけることができれば、次回のプレゼンで生かせるアイデアが出てくるかもしれません」(永井氏)。

 永井氏は、「ポイントをまとめると、確実に記憶されるメッセージを作るには、(1)優先順位をつける、(2)あえてお約束を破る、(3)メタファーを使い倒す、(4)シナトラ・テスト、(5)統計的な数字よりも個人への感情、(6)行動の追体験。以上の6つです。6つのポイントを紹介しましたが、6つ全部をカバーする必要はありません。あわせ技でハイスコアを狙いましょう」と語る。

プレゼン資料は3段階のフィルターで考える

3、心を動かす資料の作り方

 心を動かすプレゼン資料を作る場合、相手が共感するWhyからはじめ、Why→How→Whatで語れば、人は心が突き動かされ、行動につなげることができる。しかし、いざプレゼン資料を作ってみようとすると、情報がたくさんありすぎて、何をどう選んだらいいか分からないことも多い。そこで、Why→How→Whatを3段階のフィルターで考える。

 第1フィルターでは、集めてきたたくさんの情報を俯瞰し、眺めてみる。関係ない情報はこの段階で弾いておく。第2フィルターでは、Why、How、Whatの3要素を抜き出す。第3フィルターは、Why、How、Whatを再構成する。Whyが少ない場合は、Whyを追加する。最後に、分かりやすく順番を整えれば出来上がりである。

 永井氏は、架空のビジネス「桃太郎コンサルティング」の事例で説明した。ある村では米を収穫するときに、いつも鬼がやって来て米を持っていってしまう。この村人の悩みを、経験豊富なコンサルタントである桃太郎が解決する、というコンサルティングサービスを想定したものだ。桃太郎コンサルティングの情報の要素を洗い出すと以下の通り。

 ・問題解決で100両分の損失がなくなる

 ・村娘と恋に落ちたイケメンの桃太郎はお米が大好き

 ・実は桃太郎は社長

 ・キジは凄腕分析官

 ・犬は全国闘犬コンテストで優勝経験がある

 ・ご褒美はおばあちゃん特性きびだんご…など、大抵は情報が多すぎてしまう。

 そこで、Why、How、Whatの3段階フィルターモデルで構成を考えてみる。第1フィルターで俯瞰し、第2フィルターでWhy、How、Whatを抜き出し、第3フィルターでWhy、How、Whatを再構成する。すると、「(Why→)鬼の略奪を解決」「(How→)犬猿キジの精鋭部隊で解決する。ご褒美はきびだんご」「(What→)桃太郎は経験豊富なコンサル、100両分の損失がなくなる」となる。

 しかし、Whyが「鬼の略奪を解決」だけでは大義名分としては弱い。これは当初の手持ち材料だけでは、Why が不十分だった、ということだ。そこで「なぜ村人の困りごとを解決しなければならないか」というWhyを追加で考えてみた上で、「鬼の略奪を解決すれば、村に平和もたらすことができる」というWhyを追加する。あとは分かりやすく順番を整えれば出来上がりである。

 このようにWhyから語ることで、村人の心にWhyが深く突き刺さり、桃太郎コンサルティングの依頼が増えることになる。

 永井氏は、「Whyは、お宝探しのようなものです。お宝は顧客のベネフィット。聞き手が知りたいことで、自分の強みを生かせて、自分が語れることでなければなりません。Whyが見つかれば、聞き手の共感を得て、行動につなげ、結果を出せるプレゼンになります」と話す。

 すでにプレゼン資料を作ってしまった場合も、まだ間に合う。順番を、Whyから話す資料に並べ変えればいい。まずはプレゼン資料を眺めてみることだ。1枚ずつ吟味するのではなく全体を俯瞰する。そしてWhyを見つける。なければ作る。HowとWhatは、わりと簡単に見つかるはずだ。

 「意外に大事なポイントが、Why、How、What以外の情報をカットすることです。Why、How、What以外の情報を詰め込むと、その情報がノイズになり、かえって伝わりにくくなってしまい、お宝が輝きません。せっかく用意した情報ですが、余分なものは勇気を持ってカットしましょう。

 最初から全部を完璧にやろうとする必要はありません。『まずWhyを探してみよう』とか『メタファーを考えてみよう』とか、自身でポイントを決めて、1つずつ実践していくといいでしょう。大義名分から話すことで、相手の心を突き動かし、行動に向かわせ、よりよい結果を出すことができます」(永井氏)

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