俳優・寺田農氏の「みのりのアル話」。参加者から寄せられた質問に、寺田氏が生回答ITmedia エグゼクティブ勉強会リポート

60年のキャリアを持つ俳優であり、読書家の寺田氏が豊かな見識で参加者から寄せられた質問に答えてくれた。

» 2022年04月19日 07時02分 公開
[松弥々子ITmedia]

 ライブ配信で開催されているITmedia エグゼクティブ勉強会に、俳優の寺田農氏が3回目の登場。第1回は「本を読むということ」をテーマに「本を読むことの意義」を語り、第2回は「朗読の旅」として森鴎外の「最後の一句」を朗読した寺田氏。今回は「みのりのアル話」と銘打ち、参加者から受けた質問にオンラインで答えるという、双方向型の勉強会を行った。

 俳優・寺田農氏が参加者からの質問に答える「みのりのアル話」。60年のキャリアを持つ俳優であり、読書家、東海大学で文学部特任教授を務めたことでも知られる寺田氏。その豊かな見識で、事前に参加者から送られた質問や、当日オンラインで寄せられた質問に答えてくれた。

俳優 寺田農氏

山崎豊子渾身の小説「大地の子」。ドラマ「大地の子」のロケは満州について感じたことは?

 最初の質問は、「満州について」。先日テレビで放映されていたNHKのドラマ「大地の子」を見たという参加者から、「大地の子」の舞台である「満州について」の質問が寄せられた。

 この「大地の子」は1987年から1991年にわたって連載された、作家の山崎豊子氏の代表作の1つ。満蒙開拓団の一員として満州で家族とともに暮らしていた少年が“戦争孤児”となって中国人の養父に育てられ、その後も苛烈な運命をたどる様子が描かれている。

 この小説は1995年にNHKの放送70周年記念番組としてドラマ化された。このドラマ「大地の子」に寺田氏は支那開拓団の山田団長役で出演している。

――ドラマ「大地の子」のロケ地は満州だったのでしょうか?

寺田氏 「大地の子のロケ地は、満州ではなく、実は北海道の根室で湿原を満州の地に見立てて、2週間くらいロケをしました。自然の湿原なので、もう虫がすごくてね。防虫剤を大量にまきながら撮影していましたよ(笑)。撮影の休日にはみんなで北方領土が見えるノサップ岬へ行ったりしました。名産の花咲蟹を食べたりしたんだけど、これがおいしくて。こんな過酷な戦争のドラマを撮りながら、こんなぜいたくをしていいんだろうかなんて話をしていました」

 寺田氏はロケ地の合間に撮影された写真などを画面越しに見せながら、撮影時の思い出などを語ってくれた。

――満州国とはどういうものだったと思われますか?

寺田氏 「日本は1932年に満州を樹立し、国策として多くの移民たちを満州に送りました。しかし1945年8月9日、終戦の直前にソ連が日ソ不可侵条約を破って満州に侵攻を開始したことで、満州に移民していた人々が日本に引き上げを開始するんです。この引き上げには大変な苦労がありました。

 この時に家族と生き別れになった子どもたちが“中国残留孤児”と呼ばれますが、“残留”という言葉には自分の意思で残ったというニュアンスが感じられるということで、山崎豊子さんは彼らのことを一貫して“戦争孤児”と表記していました。満州のことは1987年のベルナルド・ベルトルッチ監督の映画『ラストエンペラー』を見るとよく分かります。本などで満州のことを学んでいくと、本当に軍部の愚かさや、日本の戦略のまずさを実感します」

たまっていく書籍や資料、写真などの整理法

 次に、本好きとして知られる寺田氏に、整理法に関しての質問が寄せられた。四十代の頃、寺田氏の蔵書は既に2万冊を超えていたそうで……。

――写真や本、台本などの整理はどのようにしていますか?

寺田氏 「実は整理整頓は本当に苦手でね。実は今日お見せした写真も必死になって探してきました(笑)。私のおすすめの本の整理法は、毎年本棚を準備して、その年に読んだ本を読んだ順番に並べていくという方法です。そうすると、後で棚を見返した時に、1年間の日記のようにその頃のことを思い出せるんです。これだと順番に並べるだけなので、整理が苦手な人でもできるんじゃないかな」

プライベートを充実させるには、やりたいことを一心不乱にやること!

 次に寄せられたのは、仕事が大好きで、若い頃は寝食を忘れて仕事に熱中していたという参加者からの質問。50代になった今、第二の人生をどう過ごすかについて考え始めたそう。

――これからの第二の人生を充実させるために、プライベートな時間を大事にしたいと思っているのですが、寺田さんはプライベートな時間をどうやって作っていますか?

寺田氏 「俳優っていうのは、会社員の方と違って、仕事とプライベートが混じり合っていて区別がつかない部分が多くあります。だからあまり参考にはならないかもしれませんが……。でも、日本人はどうしてもプライベートと仕事を分けたがるんだけど、それがおかしいんですよね。昔、イタリア人女優のソフィア・ローレンが来日したときに『女優と母とをどう分けていますか?』という質問に『あなたの言う意味がよく分からない。私は演じている時も母親だし、子供をあやしている時も女優です。なぜ分けて考えるの?』と答えたんですよ。

 仕事は普通あんまり面白いものじゃないんだよね。仕事は手を抜くことができるけど、本当にやりたいことって一心不乱にやらないと面白くないでしょう。だから、プライベートと仕事を分けて考えるんじゃなくて、“人生で本当にやりたいこと”を一心不乱にやればいいと思いますよ。仕事が大好きで熱中し、自分の人生の限られた時間の中で、夢中になって取り組むことができたのは素晴らしいことです。

 これからは、仕事以外の趣味を一心不乱にやるのもいいんじゃないかな。他に何か趣味はありますか?」

――ランニングが趣味なので、妻と一緒に日本中をランニングを兼ねて回りたいと考えてます。子どもも独立し、夫婦の時間が増えてくると思うので……。

寺田氏 「いいですねえ。僕はあんまりそういうのが上手じゃないから、夫婦仲が良くてなんでも妻と一緒に、なんていう人は憎たらしく思っちゃうんだけど。でも素晴らしいと思いますよ。うらやましいね(笑)」

何も考えていない素直さが魅力の大学生。親は子どもがやりたいことを見つけるまで見守るのみ

 大学2年生の子どもがいるという参加者から、今の大学生をどのように思うかという質問が寄せられた。コロナ禍の影響で息子さんが家にいることが多いことが気掛かりだそう。

――寺田さんは大学で教えていたということですが、どのようなことを教えていたんでしょうか?

寺田氏 「僕は若い人が好きなんですよ。大学生とか、彼らはたいがい何も考えてないですよね。そんなところが面白くてね。5年間ほど大学の教壇に立っていたんですが、その時は「演劇入門」と「映画」を教えていました。

 「演劇入門」ではワークショップみたいな形で、学生たちをグループにわけて、1つのテーマを与えて学生たちに脚本から演出、配役まで全て自分たちの力で短い芝居を作ってもらいました。このワークショップでは、なかなか面白いものを作ってくれましたよ。

 「映画」は前期が「映画史入門」、後期が「現代映画論」という形で、授業中にいろいろな映画作品を見て感想を聞いていました。ある時、小津安二郎の『秋刀魚の味』という映画を見ました。これは岩下志麻さんが当時の結婚適齢期といわれる時期に、父親の笠智衆の世話をしていて、なかなか結婚しないという映画です。ある学生に感想を聞いたら「すごく面白かったけど、『秋刀魚の味』というタイトルなのに、サンマが一度も出てこなかった」なんて言うんですよ。いいでしょう、この素直な感覚。じゃあなぜ『秋刀魚の味』と言うタイトルだと思う?って聞いてみたら、「サンマは食べる時期があるから、同じように娘も時期を逃すとなかなか結婚できないっていう意味じゃないですかね」なんて言うんですよ。すごくセンスがいいでしょう、素直でいいよね」

――今の大学生をどのように思いますか?

寺田氏 「今は大学が就職のための予備校になってるところがあります。この先生がいるからこの大学に行きたい、っていうんじゃなくて、偏差値に合わせて大学を選んで入学して、大学2年生くらいから就職活動に入って……。もったいないよね。大学では「何を勉強するのか」を意識した方が、はるかに人生が面白くなるんですよ。

だから、学生には何か1つでもいいからやりたいとことを見つけてほしいですよね。それが映画であったり、小説であったりするかもしれないし。親としては、そのやりたいことの糸口を目覚める瞬間を、見守っていくしかないですよね。親が言っても反抗するんでしょうけど」


 寺田氏のたっての希望で、質問者の顔を見て、じかにコミュニケーションをとりながら行った今回の「みのりのアル相談」。最後には、寺田氏秘蔵の20代の頃のプロマイド写真なども公開され、画面越しに参加者から大きな拍手が送られていた。寺田氏は「実りがあるんだか、ないんだかね」などと笑っていたが、寺田氏の文学・映画などに関する深い見識に触れられた参加者には、大いなる実りの時間となったようだ。

寺田氏秘蔵の20代の頃のプロマイド写真

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