身の回りの防災に役立つハザードマップが一例だ。現在、ハザードマップは、各都道府県の自治体が独自に作成しており、各自治体のWebサイトのほか、国土交通省のWebサイトでまとめて参照できるようにしてあるが、仕様が統一されていないことから危険度を表す色ひとつ取ってもばらばらだ。
「Specteeで提供しているハザードマップは、国土交通省のWebサイトにまとめられているハザードマップのデータをもらい、許可を得て、同じ形式、同じ色、同じ仕様で作り直しています。今では自治体の担当者からも、もっとも見やすいのはSpecteeのハザードマップだと言ってもらえています。ハザードマップに限らず、現在取得できるデータは、形式が統一されておらず、更新の時期もバラバラです。こうしたデータを統一して使いやすくすれば、おのずと利用されるようになると考えました」(村上氏)
災害の情報は企業のサプライチェーンのリスク管理でも必要とされている。例えば、全国に店舗を展開している大手流通グループでは、災害発生時に店舗が被災するのはもちろん、流通網が寸断され、各仕入先から商品を調達できるかどうか、それにより販売にどれくらいの影響が出るかといったリスク管理が不可欠だった。また大手自動車メーカーでは、部品の調達が遅れると、生産ラインが止まってしまうことから、Specteeを活用してリスクを管理している。
「大手自動車メーカーでは、数十万点〜数百万点の部品を管理しています。これらの部品を複数のサプライヤーから調達し、最終的に自動車メーカーが組み立てます。この春も福島県沖で発生した地震により部品工場の生産がストップし、ある自動車メーカーの生産が約1カ月止まったことも報じられています。部品工場の生産が止まれば迅速な切り替えが必要です。特に半導体は需給が逼迫(ひっぱく)していて世界中で取り合いになっています。サプライチェーンの管理はますます重要になります」(村上氏)
Specteeの災害情報は、基本的には気象データやSNSの情報でカバーされているが、サプライチェーンのリスク管理では、ある拠点からある拠点までの道路状況のデータも必要になる。そこで、大手自動車会社が保有する、走行速度や位置情報などの通行実績データを解析することで、物流・運行などを停滞させる事象や危機の発生を察知し、最適なルートを提案している。
「災害が発生したときに、そのエリアで自動車が走っていないと、かなり大きな被害が発生し、道路が通れなくなっている可能性が高いことが分かります。こうした状況は、一般的な交通情報やテレビのニュースだけではすぐには把握できません」と村上氏。
携帯電話から得られる人流データなどを利用して、帰宅困難者がどこに集まっているかを可視化することもできるという。
「これからの防災に求められるのは、“危機”の視点からさまざまなデータをリストアップして、できる限り多くのデータを取得し、それらを解析することで危機を可視化し予測することです」と村上氏。そのためにサイバー空間にリアルな世界を再現する、精緻な「デジタルツイン」を構築し、さらに詳細なシミュレーションを可能にするなど、災害を事前に察知し、迅速な対応ができるようにしていきたいという。
「危機の可視化からデジタルツインによる被害予測へと取り組みを進めていきます」と村上氏。災害対応では一分一秒を争う。可視化と精度の高い予測をもとに迅速に判断が下せれば、より多くの命が救える。
Windows 3.0が米国で発表された1990年、大手書店系出版社を経てソフトバンクに入社、「PCWEEK日本版」の創刊に携わり、1996年に同誌編集長に就任する。2000年からはグループのオンラインメディア企業であるソフトバンク・ジーディネット(現在のアイティメディア)に移り、エンタープライズ分野の編集長を務める。2007年には経営層向けの情報共有コミュニティーとして「ITmedia エグゼクティブ」を立ち上げ、編集長に就く。現在は企業向けIT分野のエグゼクティブプロデューサーを務める。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
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明治学院大学 経済学部准教授