人的資本経営が重要とされるこの時代に、社員のエンゲージメントを高めるためにも重要な“働きがい”。その“働きがい”を高める一つの手段が、組織心理学に基づき職場やチームの関係密度を高める“職場風土づくり”だ。
ライブ配信で開催されているITmedia エグゼクティブ勉強会に、「株式会社職場風土づくり」代表取締役の中村英泰氏が登場。2022年12月に上梓された著書「社員がやる気をなくす瞬間 間違いだらけの職場づくり」をもとに、『企業の持続的価値向上に向けた職場風土づくり〜社員のモチベーションと関係密度』をテーマに、講演を行った。
人材サービス会社、アフリカ人就労支援企業などを経て、2016年に「株式会社職場風土づくり」を設立した中村氏。「働くことを通じて役に立っていることが実感できる職場風土を創る」という思いのもと、職場風土診断や人材育成プログラム構築事業、人事評価制度事業、教育研修、セミナー事業などを行っている。
厚生労働省が発表した人口動態統計によると、2022年の日本の出生数が80万人を下回った。これは5年間で20万人近く減少したことを意味する。この人口減少の時代、企業にとって大きなテーマとなるのが、「DX」と「人材育成」だ。2025年には超高齢化社会が到来し、生産年齢人口の減少により、働く現役世代の人材が不足していくと言われる。これから、職場に若手社員がどんどんいなくなっていくことが懸念されている。
そこで叫ばれているのが「人的資本経営」だ。人材をコストではなく資本と捉え、その価値を最大限に引き出すことで、企業価値を向上させていかなければならない。2023年3月期から、人的資本に関する情報開示の義務化がスタートしている。現在は有価証券報告書を発行する大手企業のみが対象だが、人的資本経営は中小企業であっても、どんな業態であっても、意識すべきポイントとなる。
「その人的資本の価値を向上させるのが、“働きがい”であり、“働きがい”を向上させるために重要なのが“職場風土づくり”なのです。職場風土は、部署やチームの社員同士の接触の量と質によって形づくられるもので、人的資本経営に欠かせない要因です。さらに“社員のエンゲージメント”や“企業文化の形成”に対しても大きく影響します」(中村氏)
人口の減少、異次元の高齢化、労働価値の変化というメガトレンドの中で、多くの企業が労働環境は「労働時間減」「労働負荷減」「職場重圧感減」という3減を進めて来たが依然、職場に対する満足度は50%前後にとどまったままで増える気配がない。20代の若手社員は将来への漠然とした不安を抱え、30代の社員は今後のキャリアビジョンが不確実と考えており、40代は年収や収入に関しての不満を持ち、50代は定年退職後のセカンドキャリアへの不安を抱いている状況だ。世界と比較しても2022年の日本の従業員エンゲージメントは5%と東アジアの中ではもっとも低くなっており、当然ながら世界競争力は世界34位まで落ち込んでいる。
「労働環境の3減に取り組んだこともあり、職場の働きやすさは上がっているが、働きがいは下がっているという統計を目にします。その一因として、デジタル化とコロナ禍で人と人とのつながりは薄くなり、働きがいを感じる機会が減っていることがあげられます。確かに、仕事の効率性は格段に高まっているのかもしれませんが、かつては時間をかけて関係性をつちかうことで得られるものがありました。そうしたなかで、職場の環境についてもう一度考え直していかなければならなくなっています。」(中村氏)
2030年には労働需要7073万人に対し、労働供給は6429万人と、644万人の労働力需給ギャップが生まれると言われている。そこで必要とされるのが「働く女性を増やす」「働くシニアを増やす」「外国人労働者を増やす」「労働生産性を増やす」という4つの対策だ。なかでも、明日から企業単体で取り組むことができるのは「労働生産性を増やす」ことです。
では、何から始めるのかと言うと、「まず“経営戦略との連動”です。経営戦略を実行するためにどういう人材が必要なのか、そのためには部下がいつまでに、どう成長しなければいけないのかを考えて、日頃から部下と接しなければなりません。次に“重要な人材課題の特定”も必要です。各個人の課題を特定して、克服するための研修を行わなければなりません。また“重要業績評価指標(KPI)の設定”も重要です。一つの評価尺度として共通のKPIを握ることで、仕事に取り組むための重点項目が何かを部下に理解させることができます」(中村氏)
これらの“経営戦略との連動”、“重要な人材課題の特定”、“重要業績評価指標(KPI)の設定”はいわゆる人的資本経営の3つの基本アクションでもある。MBO(Management by Objectives)という目標管理制度で事業性を高め、さらに別のMBB(Management By Belief)という目標管理手法で関係性を深めて職場風土をよりよいものにしていく。これが企業の持続的価値向上につながっていくのだ。
なぜ職場風土づくりが重要なのか。それは組織心理学に基づいている。組織心理学とは、企業の利益と労働者のニーズを一致させることで、従業員のQOLと組織の生産性を向上させることを目的に「仕事における意思決定の方法、組織のコミュニケーションの効果、交流や協力のあり方など」を研究する領域のことだ。
「職場というのは、チーム(Team)で職務を行う場所(Place)です。組織心理学をもとに、このTeam&Placeをつくり上げていくのが職場風土づくりです。一方で職場をただの集団(Group)が存在する箱(Space)にもできます。何を目指すのかによって、選択すべきアクションが異なる様に、職場風土づくりというのは、ただ仕組みを整えるのではなく、チームメンバーの関係性をしっかり築き、お互いにモチベートできる環境をつくることで成立するのです。」(中村氏)
ここで職場風土について解説します。職場風土とは、社員一人ひとりの「この会社は○○である」といった価値観が集合したもので、職場を構成するさまざまな項目を向上させたり、停滞、減退させたりする原因となる。職場風土が悪ければ「職場が、上司が合わない」「仕事が合わない」「モチベーションが上がらない」「不本意な離職が増える」といった負の作用が起こる。しかし職場風土を改善することによって「職場の関係密度が高まる」「指示の捉え違いのエラーが減る」「仕事を通じた成長の機会が増える」「会社×社員のエンゲージが向上」といった正の作用が発生する。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
株式会社CEAFOM 代表取締役社長
株式会社プロシード 代表取締役
明治学院大学 経済学部准教授