「会社は組織から成り、組織は職場の集合体で成り立っています。職場とは、部署や課ではなく自分の周辺の5メートルを指します。社員個々がその範囲の他社員とのかかわり方を変えて、風土を変えてゆくことで、生産性、業務効率、社員満足度、モチベーションなどが変わります。職場の関係密度が高く、心理的安全性の高い職場風土であれば、会社と社員のエンゲージメントも高まっていきます」(中村氏)
中村氏の著書「社員がやる気をなくす瞬間 間違いだらけの職場づくり」には、読者の職場風土がどのような状態か、簡単にリサーチできるチェックリストが掲載されている。
チェックをつけた項目が多ければ、その職場は事業性にフォーカスしているといえる。逆にチェックが少ない職場は、関係性にフォーカスしている職場と考えていいだろう。
職場風土には4つの類型がある。社員同士の関係性が密でイノベーションが起きやすい「創発型風土」、目の前の成果のみを追い求める傾向がある「受動型風土」、社員の不満や問題が潜在している傾向がある「能動型風土」、社員が自信を歯車だと思っている傾向がある「離散型風土」などだ。自身の職場風土のタイプを知るには、中村氏の著書「社員がやる気をなくす瞬間 間違いだらけの職場づくり」を確認してほしい。
この数年で、職場に対する概念は大きく変わってきている。これまで職場は「仕事をする場所」だったが、これからは「仕事を通じてキャリア成長する場所」という観点を基に、「効率化と生産性の向上」にプラスして「関係密度の向上」にも取り組まなければならない。また、個人が職場に期待することも変化している。以前からの「組織内スキルの獲得」「組織内キャリアの強化」であったが、これからはそこにプラスして「ポータブルスキルの獲得」「パラレルキャリアの強化」があげられる。最後に、組織が職場に期待することは「組織内人材の育成」と「自律型人材の育成」となる。これからの職場は関係性を密にし、チーム全員の総積で、結果を出していく必要がある。
また、職場の関係性を密にするには、社員同士が縮めなければならない、3つの距離がある。それが「サイロ=役職や階層に生じる距離」「スラブ=部署間に生じる距離」「バウンダリー=個人が心理的に抱く距離」だ。何も策を講じなければ、上司と部下は「サイロ」によって分断され、支店や部署は「スラブ」によって分断されます。さらに、個人個人が相手との間に境界線を引いてしまい「パウンダリー」によって分断が生じます。これらを乗り越え、理想的な職場風土をつくるため、関係密度を上げることが企業価値を持続的に向上させるために重要になる。
※サイロとは農場にある円筒形の穀物倉庫のこと、上から穀物を入れるとしたから流れ落ちる仕組みになっています。穀物が下から上に移動することはありません。スラブとは石板のこと、硬くて壊れることはありません。バウンダリーとは個人の心理的な距離のことで、人と人の間にできる境界や壁を意味し、人が本音を話すにはこの距離を越えることなくしてありません。
最後に、職場風土づくりに欠かせない3つのアクションをまとめると、以下のようになる。
1. 方針の決定(ビジョン)
経営戦略との連動、重要な人材課題の特定、重要業績評価指標(KPI)の設定
2. 現状の把握(リサーチ)
サーベイ、職場風土診断、タレントマネジメント
3. 課題の把握(ターゲット)
課題分析、専門家の協力
この3つのアクションを実行して、事業性(MBO)を高め、関係性(MBB)を深めるためのPDCAを回していくことが、企業の持続的価値向上につながっていく。
「職場をただの箱ではなく皆が集まれる“Team&Place”にしていきましょう。一時期、ワークライフ・バランスという言葉がはやりましたが、ワークとライフを切り離して考えるのではなく、働く時間を人生の1つとして考えるワークライフ・インテグレーションの思想が大事です。職場だからこそ成しとげられること、相談できること、職場だからこそ発揮できる私がいるはずです。それを見出すことが、企業の持続的価値向上になるのではないでしょうか」(中村氏)
中村氏は、職場風土にフォーカスすることで労働生産性をあげ、人的資本を形成していく重要性についてまとめ、講演を終えた。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
株式会社CEAFOM 代表取締役社長
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明治学院大学 経済学部准教授