紹介したように、単に既存事業の延長線上に新しいDXの価値を創造することは「言うは易く行うは難し」だと思います。本質的な変化を求められるビジネス環境において、顧客や利用者の視点からビジネス価値を創造するために、ビジネスアナリシスのガイドであるBABOK(Business Analysis Body of Knowledge)を活用することは有効です。今回ご紹介した事例でもよく使われる、2つの知識エリアについて触れます。
(1)BABOKの知識エリア例(引出しとコラボレーション、要求アナリシスとデザイン定義)
「引き出しとコラボレーション」のタスクは、ステークホルダからのニーズやインサイトを体系的に引き出し・収集し、新しいビジネス機会を発見する手法です。本タスクでは、顧客インタビューや観察、ワークショップなどの手法を用いることで、真のニーズ・インサイトを掘り起こします。このプロセスにより、顧客が実際に望んでいる事の意味と価値を明らかにし、それに応じたビジネスモデル仮説を構築することが可能になります。
また、「要求アナリシスとデザイン定義」タスクは、顧客を中心に据えた新しいビジネスプロセスやサービスのデザイン創造を支援します。このタスクでは顧客視点で、あるべきE2Eのカスタマージャーニーを詳細に検討・分析し、そのプロセス全体を最適化することなどをサポートします。
例えば、コールセンター業務の変革を考えてみます。「引き出しとコラボレーション」を活用しコールセンターへ電話をしてくる真の理由を探ります。本来、電話は面倒なのでかけたくないはずなのになぜかけてくるのか。そして電話する真の理由がホームページの情報が不足していたり、関連会社にリンクだけとばしていたり、キャンペーン内容の分かりにくさだと判明した場合、顧客基点で解決策の仮説を立てます。
そして「要求アナリシスとデザイン定義」の手法で仮説を具体化します。顧客が架電する前の状況から、カスタマージャーニーを作成し、企業・関係会社全体で顧客ストレスが発生しないビジネスモデルを検討、業務プロセスに落とし込み変革を進めるのです。これには、企業文化の変革や従業員のスキルアップ、ステークホルダ調整などさまざまな要件が必要ですが、ビジネスアナリストがファシリテートすることで、顧客から評価される大きな価値創造へと繋げることが期待できます。
DXは、企業が従来の枠を超えた領域で、E2Eのビジネスモデルを考えられるかが鍵です。それには、これまでの垣根を超えたパートナーシップやサードパーティーとのデータ共有など、大きな意識改革と広範な視点が必要です。
この様に、ビジネスアナリシス活動は、なかなか周りに相談する事が難しい、孤独な取り組みが多いと感じます。こうした中で、手段が目的化していないか、日和ったり現状維持に流されていないかなどなど、活動を自己評価する観点を7つ挙げてみました。皆さんぜひ、自己チェックの参考としてみてください。
(1)視点を転換する
(2)改革は発明でない
(3)顧客基点で前提と制約を区別する
(4)関係者を出し尽くし利害を理解する
(5)出来ることを計画する
(6)目的と手段・KPIを共有する
(7)環境や常識の差異を意識する。
IIBA日本支部 事業開発担当理事
システムエンジニアを経てビジネスアナリストとして活動。ビジネス変革や業務変革の支援、PMOによる実現サポートを軸としたビジネスアナリストの活動を通し、ITを道具とした変革のファシリテート支援を実施。
2015年以降は、基本的なビジネスアナリシス・DXの研修に加え、実プロジェクトを題材に立ち上げ〜推進の伴走支援を行い、アウトカムを創出する実践×育成の企画・講師を実施。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
株式会社CEAFOM 代表取締役社長
株式会社プロシード 代表取締役
明治学院大学 経済学部准教授