AIエージェントによる業務の自動化は、企業にとって「属人性の排除」「意思決定の高度化」「業務の自動化」という3つの役割を同時に果たす。その先に齋藤氏が描くのが「AIネイティブな企業」だ。
AIネイティブな企業とは、定常業務の大部分をAIが担い、人はチェック・確認と高付加価値業務に集中できる状態に移行した企業を指す。「定常業務の効率化によって浮いた工数を高付加価値業務へシフトし、会社の業績を向上させていく。人を削減するためではなく、人をより価値の高い仕事に向かわせるためにAIを使う、という視点が重要です。」と齋藤氏は強調する。
ただし業務の自動化だけでは、自律的なAI推進はなかなか実現しない。Algomaticでは業務・組織・システムの3軸でのAX推進が必要だと考えている。組織のAXとは、AI活用を前提とした組織構造の刷新と、社内でAI変革を推進できる人材の育成。システムのAXはガバナンス整備を含む生成AI活用・開発基盤の構築・見直しを指す。「この3つが連動して変革が回り続けることが、AIネイティブな企業になる上での柱です。今は差が小さく見えにくいかもしれないが、3年・5年という単位では計り知れない格差になると思います」。
200社超の支援を通じて、AI活用浸透が上手く進んでいない企業には共通する課題がほぼ3つに絞られる、と齋藤氏は言う。
一つ目は「AI推進体制の整備不足」だ。AI活用を現場任せにすると重複投資やセキュリティリスクのあるツール利用が生じやすい。DX推進部やAI戦略室などが旗を振って全社横断で動く体制があると、ガバナンスが効いて推進がスムーズになるという。現場起点のボトムアップではなく、トップダウンで方向を揃える形が望ましい。
二つ目は「推進人材の不足」。専任部署数名だけでは、どうしても限界がある。各部門に「AIアンバサダー」──自部署の業務に精通し、ローコード・ノーコードツールでAIワークフローを開発・運用できる人材──を育て、チームへのAI活用を広げることが推進速度を高める鍵になりそうだ。「全員をプロに育てようとするのは非現実的です。選抜メンバーをアンバサダーとして育てて部門を牽引させるモデルが、最短経路でのAI推進です」。
三つ目は「トップダウンの声の不足」。経営層からの発信がなければ現場は「業務でAIを使っていいのか」と二の足を踏みがちだ。日清食品が社長自らNISSIN AI-chatの活用方法を社内外に発信した事例や、クレディセゾンが「全社員AIワーカー化」と業務300万時間削減という目標を社長が打ち立てた事例を挙げながら、「経営層が自ら使って発信するテコのレバレッジは非常に高い」と齋藤氏は語る。
生成AIの三大リスクとして齋藤氏が挙げるのは、情報漏えい、情報の正確性(ハルシネーション)、著作権侵害の3点だ。
情報漏えいへの対策は、学習データとして利用されない法人版のAI環境──法人版Copilot、法人版ChatGPT、法人版Geminiなど──での利用徹底と、社内データへのアクセス権限の整備が基本になる。ハルシネーションについては「AI精度を99.9%まで高めても、0.1%のミスは発生する前提で運用設計を行う必要があります。end-to-endの自動化でも、ラストワンマイルは人がチェックする運用が正しい姿です。」と話す。
「経営層がリスクを理解した上でAIエージェントの推進を後押ししつつ、リリース時のブレーキ役も担う。そのような姿勢がAXをさらに加速させると確信しています」と、齋藤氏は講演を締めくくった。
DXが「一部の作業の自動化」にとどまっていたのに対し、AXは思考・判断を含む業務フロー全体をend-to-endで変革しようとする試みだ。その実現には、業務・組織・システムの3軸での変革と、AIアンバサダーを核とした人材育成、そして経営層のコミットメントが欠かせないと齋藤氏は見ている。「今はまだ企業のAI変革の差が見えにくい。しかし3年・5年後、AIネイティブな企業とそうでない企業の間には、計り知れない格差が生まれる」──その言葉は、AI変革への対応を先送りにするリスクをあらためて問い直すものだった。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
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明治学院大学 経済学部准教授