第48回:AI時代、マネジャーに求められる絶対的価値とは──1970年のアルビン・トフラーの警告が令和によみがえる:マネジメント力を科学する(2/2 ページ)
AI時代のマネジメント陣は何をなすべきなのか。それは「継続時間を設計すること」ではないだろうか。
継続時間を生み出す3つのマネジメント設計
では具体的に、何を変えるべきなのでしょうか。
第1に、テーマの数を絞ることです。
経営会議や部門会議で扱う戦略テーマを減らし、「いまはこれを徹底的に考える」という焦点を明確にする必要があります。多くの組織では、テーマが増えることが戦略的であると誤解されていますが、戦略とは本来「何をやらないか」を決めることです。
第2に、時間のブロックを意図的に設計することです。
深掘り議論のための定例枠を設け、短期的な報告やオペレーションの議題と分離します。断片的な短時間会議を積み重ねても、統合的な知は生まれません。
第3に、「問い」を共有することです。
加速環境では選択肢が倍化し、複雑性が増します。その中で組織が迷走しないためには、「私たちは何を問い続けているのか」という軸が不可欠です。AIが出す答えを検討する前に、人間側が問いを持ち続けなければなりません。
人間の組織が担うべきは「減速する勇気」
逆説的に言えば、AIが高度化するほど、人間のマネジメントは「減速」を学ばなければなりません。
速さで勝負する領域はすでにAIが優位です。人間のチームが担うべきは、複雑な状況の中で意味を編み直し、文脈を再構成し、長期的な方向性を描くことです。そのためには、あえて一つのテーマにとどまり続ける勇気が求められます。
トフラーが指摘した「息苦しさ」は、情報過多の問題ではなく、継続時間の喪失による心理的断片化の問題でした。そしてそれは組織において、思考の浅さとして表れます。表層的なKPIは改善しても、根本的な競争優位は築かれません。
AI時代に残された、人間の最後の価値
AI時代におけるマネジメントの真価は、処理能力の高さではなく、深掘りの持続力にあります。
継続時間をいかに確保し、チームが1つの問いに腰を据えて向き合える環境をつくれるか。それこそが、いま経営陣に突きつけられている課題です。
加速社会の中で、あえて深く考え続ける。その設計こそが、AI時代に人間の組織が発揮できる、最後にして最大の価値なのではないでしょうか。
著者プロフィール:井上和幸
株式会社経営者JP 代表取締役社長・CEOに
早稲田大学政治経済学部卒業後、リクルート入社。人材コンサルティング会社に転職、取締役就任。その後、現リクルートエグゼクティブエージェントのマネージングディレクターを経て、2010年に経営者JPを設立。2万名超の経営人材と対面してきた経験から、経営人材の採用・転職支援などを提供している。2021年、経営人材度を客観指標で明らかにするオリジナルのアセスメント「経営者力診断」をリリース。また、著書には、『社長になる人の条件』『ずるいマネジメント』他。「日本経済新聞」「朝日新聞」「読売新聞」「産経新聞」「日経産業新聞」「週刊東洋経済」「週刊現代」「プレジデント」フジテレビ「ホンマでっか?!TV」「WBS」その他メディア出演多数。
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