「レストラン」の経営からマネジメントを考えるビジネス著者が語る、リーダーの仕事術

「興味の見える化」をすると、やりたかった仕事、得意な仕事が見えてくる。競争力のある現場は適材適所から。

» 2010年09月02日 07時56分 公開
[岡田博紀,ITmedia]

 この記事は「経営者JP」の企画協力を受けております。


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「ワクワクtoデキル」で仕事の割り振り

 小さなレストランとはいえ、やるべき仕事がたくさんあるのが飲食業です。いろいろな仕事があれば、適性のあるなし、それ以上に興味のあるなしは人によって変わります。「適材適所」を大切にしたいので、全員の意向を「ワクワクtoデキル」というフレームワークを利用して把握します。

「ワクワクtoデキル」

 「ワクワクしていること」「デキルこと」という2軸がクロスしていて、そのチャート上に具体的な仕事内容を各人が書き込んでいきます。まず、部門リーダーができるだけ簡潔に、できるだけ具体的に、仕事内容を口頭で読み上げます。「経理」「人材採用」「新メニュー開発」etc.それを聞いたメンバーは、チャートのどこにそれらの仕事が当てはまるのかをどんどん書き込んでいきます。図を見てもらうと分かりますが、ワクワクしていてデキルことは「天職」、ワクワクしているがまだデキないことは「チャレンジ」、全くワクワクもデキもしないことは「絶望」という分類に入ります。おもしろいことに、メンバー間でやりたい仕事がばらけてきます。また、書き込む本人にも新たな発見があります。

『ビジネスで大切なことはみんなレストランで教わった』

 「あれ、営業は“熱望”していることなのだ。今はまだできないけど頑張ろう!」。この図表で「絶望」に入っている仕事があれば、あえてそれをやってもらう必要はありません。適性もやる気もない仕事を押し付ければ苦しむばかりで、悩んだ末に退社という事態にもなりかねません。

 このフレームワークは、本来個人の目標や適性を見極めるために作られたものですが、レストランの具体的な業務内容を書き込むことで、社内の人材マネジメントに活用できます。それぞれがやりたかった仕事、得意な仕事を比較的担当できるようになります。その結果、毎日楽しく働くことができるので、成果につながります。また、同僚や部下の意外な適性や志向を知ることで、コミュニケーションにも役立ちます。

読書勉強会を通じた「価値観の共有」

 読書勉強会は社員の価値観を確認・共有するのに役立ちます。仲間同士が価値観を共有していくためには、同じ体験を積み重ねることが大事です。ただ単に「自分はこう思う」と一方的に主張しても伝わりづらいし、押し付けがましくもなるので、先人の教えが詰まった素晴らしい本を一緒に読むという体験で、共通の想いを育てていきます。「わたしが言いたかったのは、30ページに書いてあるこういうことだったのだよ」とか、「この本はこう言っているけど、ウチの会社の考えはちょっと違うからね」という風に具体的な話ができます。直接ストレートに想いを伝えるより説得力が増します。

 勉強会の日までに各人が課題図書を読んできて、特に印象に残った個所について各人話します。他の者が、なるほど……とか、わたしはこう思う、と反応し、ディスカッションを進めていきます。

身近な数字管理で「コスト意識浸透」

 「FLコスト」という言葉を聞いたことがありますか? F=フード(原材料)とL=レイバー(人件費)の合算数値が売上に対して、どれだけの割合を占めているかを示す指標です。レストランの業態によって(フレンチ、焼肉屋etc.)内訳は異なりますが、FLコストが60%を超えてしまうと利益を出すのが難しくなります。したがって、FLコスト管理はレストランのマネジメントでは非常に重要です。料理長には原材料費の管理を、店長には人件費の管理を任せています。

 例えば、原材料費30%、人件費30%と決めたら「この数字をマネージするのが仕事。責任者としてマネジメント能力が問われる部分」と伝え、コントロールしてもらいます。原材料費コントロール担当の料理長は、在庫状況や仕入価格とにらめっこしながら、トータル30%の予算内でお客様に満足いただける料理を考えなくてはなりません。そして、その結果を1カ月ごとにチェックします。30%が守れていない月もあれば、30%は守れていてもFLコストの分母に当たる売上が落ちている場合もあります。そうなれば、30%という数字そのものが崩れてしまいます。この結果を元に、翌月の作戦を立て直します。

 こういうことを毎月繰り返していると、現場の仕事をしながら数字をコントロールし、確実に利益を上げていく方法が体得できます。日々数字を意識するクセがつくためコスト意識が身につき、何かを購入する際にも慎重に考えるようになってきます。

「待ち」のレストランは潰れてしまう

 街に出れば、美味しいレストランもサービスの良いレストランもたくさんあります。それでもつぶれる店が多く、飲食業界で生き残っていくことは、とても難しいことが分かります。お客さんを獲得するために必要なのは、「攻める姿勢」です。ただ待っているだけでは、繁盛店にはなれません。

 お客様に積極的にアプローチするのは、モノなりサービスなりを売る一企業として当然やるべきことです。予約が埋まっていない、すいている日があれば、対策を考え、すぐに行動する必要があることを従業員と共有します。店長やマネジャーに求められるのは、売り上げが悪い日にどんな対策を練り、どう店を盛り上げるかという力量です。親しいお客さまに電話やメールで来店を促したり、販売促進プランを実行したり、できることはたくさんあります。何かできることはないか?と常に頭を使って考えることで、次第にマーケティングの新しいアイデアが出て来るようになります。

 攻めながら考え続ける組織にしなければ、レストランに必要な「おいしさ」「質の高いサービス」などのソフトを満たしていても、一企業として強くなり、勝ち残ることは出来ません。

著者プロフィール:岡田博紀(おかだひろき)

エンレスト株式会社 代表取締役、 株式会社タスメイト 代表取締役社長。

1973年生まれ、金沢市出身。早稲田大学法学部卒。大学時代は京王プラザホテルの宴会ウエイターのアルバイトと海外放浪旅行に明け暮れる。インドへのバックパッカーの旅で、『劇症A型肝炎』を患い20歳の時に死にかける。ジャフコ、IT特化の投資調査会社、三菱商事、携帯アプリケーション開発会社を経て、2003年エンレストを設立。起業して最初の3年間は、レストランの店長として毎日現場に立つ。現在は、神楽坂のレストラン『江戸前炭火焼kemuri』、上海発の飲茶レストラン『一茶一坐』、企業再生・投資、プレミアムレストラン向けWEBサービス『くぅべる』を展開。エンレスト社のビジョンは、日本のサービスの質を高める(おもてなし)。著書「ビジネスで大切なことはみんなレストランで教わった」(大和書房)


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