【第10回】疲弊するIT部門(3)〜現場が求めるのは「Do it myself」三方一両得のIT論 IT部門がもう一度「力」をつける時(1/2 ページ)

急激な経営環境の変化、ビジネススピードが加速する中で現場の人たちはどうやって戦おうとしているのか。今、変化に柔軟で迅速に対応できるシステムが待ち望まれている。これからのシステムこそ、前線で戦う現場の武器となれ。そのために、現場の満足を先読みしたサービスを考えるべきだ。

» 2008年04月30日 07時00分 公開
[岡政次,ITmedia]

前回の記事「今のシステム部門は現場をも見ているか」はこちら


 ここでのポイントは、現場の人とシステムのバランスである。このバランスを考慮した仕組みとIT組織を考えるべきだろう。システムはIT部門が構築し、サービスをするというのが過去からの常識であるが、わたしはこれが大きな勘違いだと思っている。

 現場の人が要望を出し、それを受けてIT部門がシステムをつくるという役割分担では、いつまで経ってもユーザーのシステムに対する不満、不信は解消されない。これが前回述べた昔のIT部門と業務部門の悪しき関係が残したギャップである。

 現場が満足するシステムとは何なのか、という視点から考えてみなければダメだ。現場のやりたいことが、その場で簡単に自分でできる環境が提供されているというのが答えだ。これをわたしはDIM(Do it myself)ツールと呼びたい。

 例えば、業務の現場は、新製品を生産、出荷するからその製品を扱えるようにシステムに登録したい、と考えている。現行であれば、経理システム、製品構成表管理システム、購買システム、輸出管理システム、物流システム、サービスシステムなど個別にマスター登録しなければならない。しかも入力画面、ユーザーID、パスワードもそれぞれ異なる。非常に煩雑で時間がかかり、入力ミスや入力漏れも発生する。

求めているのはあくまで簡素化

 現場が簡単にシステムに登録できればいいだけである。DIM的に考えると、製品コードを製品マスターに登録すればすべてのシステムで新製品が扱えるようになる。求めているのは、簡単で分かりやすいオペレーションである。これは現場から見れば当り前で、感謝に値するようなサービスレベルではない。

 システム側から見ると、乱立する業務アプリケーション別のマスターとフロントの登録システムの間をリアル連携し、常に複数の製品マスターの整合性を保つという面倒な作り込みが必要になるから、IT部門は積極的にやろうとしてこなかっただけなのだ。

 多くの人が気付いたと思うが、これまではシステム側の都合を現場に押し付けて煩雑なオペレーションをさせていた。これでは、人とシステムのバランスが取れていない状態ため不満の原因になる。

 もう一例あげてみよう。

 月次販売実績リストが配布されてきた。自分が担当している中国上海の販売拠点の売り上げが伸び悩んでいる。上海市民の収入上昇、購買力の向上から考えると、前年比150%の伸びが期待できるはずだ。その原因を探りたい。

 現行のシステムサービスであれば次のような手順になる。

  1. (IT)上海販社の売上データの入手
  2. (人)売上データの商品カテゴリー別売上金額の分析
  3. (人)売上不振な商品カテゴリーの絞り込み
  4. (IT)商品在庫データ入手
  5. (人)商品在庫の偏在の分析
  6. (人)市場の需要動向の調査
  7. (人)同業他社の売上動向調査
  8. (人)原因究明の仮説の設定(ユーザー需要が変化している)
  9. (人)仮説検証のためのデータ分析
  10. (人)売上増対策立案
  11. (人)売上げ回復策報告レポート作成
  12. (人)分析結果報告

 これでは、システム側は明細データを提供しているだけで、分析から対策立案、報告まですべて人海戦術になっている。当然、時間も手間もかかる。またその精度も不確かだ。作業を開始してから、報告レポートができるまで1〜2週間かかってしまう。

 これでは、システムはただデータを提供しているだけでほとんどサービスできていない。「人」がおこなっている作業のほとんどは「Excel」を活用している。だから現場の人はシステム部門をあてにせず、データだけ提供してくれれば後は「Excel」で作業する、と割り切っているのである。

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