新しいビジネスチャンスのアイデアを発見するために考えられたゲームがある。簡単に関連性を見出せるキーワードはケームの中でも役に立たない。一見、「どこに関連性があるんだ」といぶかしく感じるものこそ、新しいチャンスが隠れている。
東京大学工学系研究科システム創成学専攻准教授の大澤幸生氏のグループが新たに開発したイノベーションゲームは、2006年のグッドデザインアワードの受賞作50件のキーグラフをゲーム盤にしたものである。盤上には共通のキーワードによって、いくつかの島がクラスタリングされているが、それらの島の間に赤いポイントが表示されている。
「そこが新型であることのミソです」と大澤氏は強調する。「この赤い丸は、まだ具体的なアイデアは出てきていないが、何か出て来そうですよ、ということを意味するものです。つまり、出現頻度がゼロのものまで可視化し、そこに相当する新しいビジネスアイデアを考えましょう、というのが新しいイノベーションゲームなのです」
ビジネスアイデアを書き込んだカードを、企業家になったつもりのプレイヤー間で売買し、プレイヤー達は自分の手持ちのカードと組み合わせて新しいビジネスアイデアを提案する、という基本的なルールは変わらない。この場合のカードは、グッドデザインアワードの受賞作のビジュアルと簡単な説明文が書かれたもので、その中からプレイヤーは任意の枚数を買う。ただし、プレイヤーには買うまでカードの内容は分からない。また、参加者としては3、4人の企業家役のプレイヤーの他に、企業家が出したアイデアにお金を払うような消費者や投資家の役をする人もいて、参加者の数は多いときには20人ほどにもなるという。
ゲームが進行するに連れて、実現可能性があり、イノベーティブなアイデアを出していく人はどんどん金持ちになり、逆に変なアイデアを買った人はどんどんジリ貧になっていく。なぜなら、変なアイデアと自分のアイデアを組み合わせてもっと変なアイデアを作ることになり、結局は誰も買ってくれなくなるからだ。そしてゲームとしては、企業家が出したアイデアを消費者役の人が実現可能性、創造性、コストなど5つの評価指標に基づいて評価することによって、終了ということになる。
「キーグラフを見て、これとこれは何か似てるなと思うところがあると、そこに新しい組み合わせを考えようという気になってきます。しかも、そのときにちょっと刺激を与えると、普通は結び付けないものを結び付けるようになります。ですから、このゲームでは適切にコミュニケーションをしながら想像力を働かせて新しいビジネスチャンスを見つけていくというのがポイントになります」と大澤氏は言う。
大澤氏は、これまで数多くのイノベーションゲームを開催してきて、さまざまなことが新たに分かったという。「まだ一般的に理論化していいかどうか分からないが」と前置きして、大澤氏はこう語る。
「ゲームが始まると、ものすごく発想が豊かな人が2、3人いて、新しいアイデアをどんどん出してくる発散的な時間というのがまずあります。その後、それまでやや冷めていた人が話し始めます。これは必ずしも前に話していた人のアイデアを無視するのではありません。発散的に出てきたアイデアをまとめながら、実現可能性を伴ったアイデアを発言する人が、どこかに隠れている場合があるのです。ですから、どういう人がゲームに参加すると、オリジナリティが高く、かつ実現可能性が高いアイデアが出てくるか、ということがゲームを通じて見えてきます」
また、ゲームが進行していくと、やがてプレイヤーが行き詰まりを感じる時間がやって来る。「それは一般的にも言えることですが、実は行き詰まりを感じていればいるほど、ぱっと新しいアイデアが出てくるんです」と大澤氏は言う。さらに、「まだそんなにいろんなパターンを試してみたわけではないが」と前置きして、こうも語る。
「ゲームですから、かなり自由にやってもらってますが、例えば新しいアイデアをプレゼンテーションする時間を何分以内という風に制限したり、ゲームで使う持ち金を少なめに制限したりする方が、恐らく豊かなアイデアが湧いてくるだろうと思っています。と言っても、ただ制限すればいいというものではなくて、いい制約を考えてあげることが大事です」
その制約の1つとして、大澤氏が興味を持っているのがコミュニケーション環境だという。つまり、コミュニケーションというのは、その場に対してどんな制約を加えるかによって、クリエーティブなものにもなるし、実用的なアイデアを出すようなものにもなるから、発想豊かで、創造的なコミュニケーションの場にするためには、どういう制約がいいのかということである。それについて、大澤氏は「今、考えているところです、としか申し上げようがありません」と言う。
さらに、イノベーションゲームで高得点をあげる人は、実際のビジネスでも成果を上げている人が多いとも言う。「いろんな仕事を渡り歩きながら、苦労して少しずつキャリアアップして来た人の方が、本当の意味で地頭のたくましさがあるような気がします」と大澤氏は分析する。
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早稲田大学商学学術院教授
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明治学院大学 経済学部准教授