一方で現状のM2Mは、個別の問題解決の域を出ていない懸念がある。機械と機械をつなぐという概念にとらわれ過ぎると、「木を見て森を見ず」という状況に陥りやすい。機械と機械をつなぐというのはあくまで手段であり目的ではない。目的は「見る」ことである。つまり「見える化」のMなのだ。
では、見るためには何が必要だろうか。これまでの遠隔監視も実は見るということにほかならないが、M2Mの成果は現場などの一部を見ることに限定されている。M2Mの真価が発揮されるのは、獲得したデータをどのように活用するかである。
例えば、工場における生産システムは、基幹システムとは別系統になっていることがほとんどだ。セキュリティ上の理由と、管轄部門が異なることが主因である。しかし、現場の生産状況に基づき経営判断を迅速に行ったり、在庫管理や受発注を行おうとする現状をかんがみれば、これらのシステムが別々に存在するという現状は不完全なものである。これはほかの産業分野でも同様である。個別のシステムがいまだにつながらず存在していることが多い。真のサプライチェーンマネジメント(SCM)構築のためには、現場のデータが経営システムにまでつながっていることが重要である。すなわち、Machine to Enterprise、M2Eが求められているのだ。
ある企業が顧客に納入している機器の保守を遠隔で行うためには、顧客の現場を見る必要がある。しかし顧客は生産データの漏えいなどを恐れ、遠隔監視を許さない。他方で木目の細かい保守を望んでいるのだ。遠隔保守を行いたい企業が必要とするデータだけを見ることができればこの問題は解決する。見える化するためには「見えない化」も必要という禅問答のようでもある。実際にこのようなネットワーク接続技術を開発し、商用化を進めている企業もあり、企業間の垣根を越えたM2Eを実現させる素地もつくられ始めている。
このように、M2MはM2Eという方向に発展していくことが必須なのである。ただしそのための課題も多く、現場の状況や業務プロセス、要望などに基づき、必要なICT(情報通信技術)を適用していく方法論が欠かせない。一般のユーザーは、ITのことをそれほど知らないのだ。そのような人々が必要な道具として容易に使える環境にまで落とし込んでいく必要もあろう。現場とITの双方に通じたスタッフを育成、投入することも必要である。このような活動がITの価値を高め、ユーザー企業の価値を高めていくのである。ユーザーとベンダーのコラボレーションを通じ、M2Eを実現すること。これが、2009年の新機軸の1つである。
参考までに、2008年9月にM2Mコンソーシアム編著で「M2M あらゆるモノを通信で繋ぎ競争力に差をつける!」(日刊工業新聞社)という書籍が出版されているので詳細はそちらを参照されたい。
ユビキタスネットワーク環境は、その可能性のほとんどが未開です。有効に使っていくためには、様々な視点、アイディア、知恵などなどが必要です。皆で考えていきましょう。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
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明治学院大学 経済学部准教授