ローズヴェルト大統領のニューディール政策を激しく批判する米国のある女性ジャーナリスト。その背景にある理由とは。世界恐慌の素顔に迫る。
昨年秋のリーマン・ショック以来、世界恐慌への関心は高まるばかりである。米国では1929年に始まった「大恐慌(Great Depression)」に関する書籍は、頻繁に刊行され、研究も充実している。かたや日本においては、数年に1冊出るかどうかで、研究の最先端も一般の人にはほとんど知られていない。
こうした空白を埋めてくれるのが本書といえよう。「The Wall Street Journal」や「The Financial Times」などに寄稿が多い女性コラムニスト、アミティ・シュレーズが大恐慌の膨大な資料にあたり、さまざまなエピソードを挙げてアメリカ大恐慌の大パノラマをつくり上げた。米国では刊行から半年で10刷を超えるベストセラーとなった。
本書の中心ともいえるのが、ローズヴェルト大統領のニューディール政策に対する激しい批判である。今日ではニューディール政策が民間企業の働きを抑制し、大恐慌からの回復を遅らせたという歴史的評価は完全に一般化している。恐慌を本当に終わらせたのは第2次世界大戦による戦争需要だった。
1933年に大統領に就任したローズヴェルトは、TVA(テネシー川流域開発公社)をはじめとする大規模な公共事業政策を推し進めた。不況対策として有効とされたこのような政策について、経済学的というより、一般の人々にもたらした影響をシュレーズは丹念に描いている。例えば、ニューディールの柱の一つだったNRA(全国復興庁)が中小企業に厳しい規制をかけたため、数々の激しい訴訟による抵抗にあったというエピソードが紹介されている(ブルックリンで養鶏場を営んでいたシェクター一家のケース[下巻])。
ローズヴェルトは最初の大統領選の際に、「経済的ピラミッドの最下層にいる忘れられた人々(forgotten man)のために働く」とスピーチしたが、逆に彼のニューディール政策のために犠牲になった企業人や市井の人々が数多くいた。本書ではその人々にスポットライトを当てている。
本書は、これまで日本でほとんど紹介されてこなかった、アメリカ大恐慌の「素顔」が描き出されている。それは決して単に過去のものになったわけではないのだ。下巻には、アメリカ大恐慌研究の第一人者である秋元英一氏の解説も収録。
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