知られざる素顔に迫る――「アメリカ大恐慌」経営のヒントになる1冊

ローズヴェルト大統領のニューディール政策を激しく批判する米国のある女性ジャーナリスト。その背景にある理由とは。世界恐慌の素顔に迫る。

» 2009年03月07日 09時00分 公開
[ITmedia]

 昨年秋のリーマン・ショック以来、世界恐慌への関心は高まるばかりである。米国では1929年に始まった「大恐慌(Great Depression)」に関する書籍は、頻繁に刊行され、研究も充実している。かたや日本においては、数年に1冊出るかどうかで、研究の最先端も一般の人にはほとんど知られていない。

『アメリカ大恐慌―「忘れられた人々」の物語』上・下 著者:アミティ・シュレーズ、翻訳:田村勝省、定価:2520円(税込)、体裁:四六判、発行:2008年11月、NTT出版 『アメリカ大恐慌―「忘れられた人々」の物語』上・下 著者:アミティ・シュレーズ、翻訳:田村勝省、定価:2520円(税込)、体裁:四六判、発行:2008年11月、NTT出版

 こうした空白を埋めてくれるのが本書といえよう。「The Wall Street Journal」や「The Financial Times」などに寄稿が多い女性コラムニスト、アミティ・シュレーズが大恐慌の膨大な資料にあたり、さまざまなエピソードを挙げてアメリカ大恐慌の大パノラマをつくり上げた。米国では刊行から半年で10刷を超えるベストセラーとなった。

 本書の中心ともいえるのが、ローズヴェルト大統領のニューディール政策に対する激しい批判である。今日ではニューディール政策が民間企業の働きを抑制し、大恐慌からの回復を遅らせたという歴史的評価は完全に一般化している。恐慌を本当に終わらせたのは第2次世界大戦による戦争需要だった。

 1933年に大統領に就任したローズヴェルトは、TVA(テネシー川流域開発公社)をはじめとする大規模な公共事業政策を推し進めた。不況対策として有効とされたこのような政策について、経済学的というより、一般の人々にもたらした影響をシュレーズは丹念に描いている。例えば、ニューディールの柱の一つだったNRA(全国復興庁)が中小企業に厳しい規制をかけたため、数々の激しい訴訟による抵抗にあったというエピソードが紹介されている(ブルックリンで養鶏場を営んでいたシェクター一家のケース[下巻])。

 ローズヴェルトは最初の大統領選の際に、「経済的ピラミッドの最下層にいる忘れられた人々(forgotten man)のために働く」とスピーチしたが、逆に彼のニューディール政策のために犠牲になった企業人や市井の人々が数多くいた。本書ではその人々にスポットライトを当てている。

 本書は、これまで日本でほとんど紹介されてこなかった、アメリカ大恐慌の「素顔」が描き出されている。それは決して単に過去のものになったわけではないのだ。下巻には、アメリカ大恐慌研究の第一人者である秋元英一氏の解説も収録。


Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

ITmedia エグゼクティブのご案内

「ITmedia エグゼクティブは、上場企業および上場相当企業の課長職以上を対象とした無料の会員制サービスを中心に、経営者やリーダー層向けにさまざまな情報を発信しています。
入会いただくとメールマガジンの購読、経営に役立つ旬なテーマで開催しているセミナー、勉強会にも参加いただけます。
ぜひこの機会にお申し込みください。
入会希望の方は必要事項を記入の上申請ください。審査の上登録させていただきます。
【入会条件】上場企業および上場相当企業の課長職以上

アドバイザリーボード

根来龍之

早稲田大学商学学術院教授

根来龍之

小尾敏夫

早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授

小尾敏夫

郡山史郎

株式会社CEAFOM 代表取締役社長

郡山史郎

西野弘

株式会社プロシード 代表取締役

西野弘

森田正隆

明治学院大学 経済学部准教授

森田正隆