必ずしも高級品だけが価値のあるものだとは限らない。有名な陶器も異国の路上で偶然見つけたメモ書きも人によっては等しく価値があるという。
本書は、雑誌「暮らしの手帖」編集長であり、文筆家、書店店主である松浦弥太郎氏が、日々の暮らしで愛用する100の品々と向き合ってつづった文章と、自らの手で撮り下ろした写真とで編んだ写真エッセイ集である。多忙な毎日を送りながらも、衣・食・住を楽しむ著者の健やかで爽やかな息づかいが伝わってくる一冊だ。
たとえモノであっても、家族や恋人、大切な友人と同じように、一つ一つに出会いの思い出、好きな理由が存在する。それはヒトとモノとの間に通い合う小さな物語ではないだろうか。
松浦氏は40代になり、若いころのように「買い物をしたい!」という欲がなくなった。モノを買うのは“出会った”ときだけ。そして背景に物語があるものを持ちたいと思うようになった。そんな彼は、出会いを大切にするために世の中にあふれる情報から距離を置くことに気を付けている。そうして自分の中をいつもからにしておくわけだ。
実際に見たり触ったりしなくても、インターネットで調べれば知っているような気になれる今の時代。それはとても危険なことである。仕事でも暮らしでも、自分で見て、触れて、感じてみるべきである。
有名な陶芸家の器も、サンフランシスコの路上で拾った見知らぬ誰かのメモ書きも、松浦氏にとっては等しく価値がある。高価=価値がある、とは限らない。モノの価値を決めるのは、あくまでも、それに対する自分自身の思いひとつである。
本書を読み進めると、結局本当に大切なのは、モノではないということを感じる。モノと向き合うことで自分の心のありようが見えてくる。日々愛用するモノについて語りながらも、モノの向こう側にある大切なことに気付かせてくれる。読み終わった後には、今度は自分の愛用品のことを考えたくなるのだ。
いつも何気なく使っているモノと真剣に向き合ってみませんか? 自分は本当にこれが好きなのかと確認してみる良い機会である。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
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明治学院大学 経済学部准教授