市況が目まぐるしく変化する今、経営者の重要性は格段と増している。1つの誤った判断が企業の命取りになる危険性も秘めているのだ。そうした中、多くの企業にとって次世代の経営者の育成は無視できない課題となる。
優れた経営者はいかに生まれるのだろうか――これに対する解は、今も昔も変わらず企業に課された命題であると言える。長い年月をかけて経営トップとしての訓練をすることが重要なのか、あるいは、元々備わっている資質によるところが大きいのだろうか。
現在、多くの企業では組織のフラット化によってリーダー人口が減少していることに加えて、目まぐるしく変化するビジネス環境に俊敏に対応しなければならないという状況から、企業のトップに立つ経営者の重要度は一段と増している。まさに企業においては、優れた経営者の育成が喫緊の課題と言えよう。
慶應義塾大学ビジネス・スクールの高木晴夫教授は、能力の成長には資質と経験が密接に関係していると話す。例えば、資質が同じ2人の新入社員がいたとすると、両者の成長に差異をもたらすのは最初の上司の良し悪しの違い、すなわち経験の違いだという。一方、資質に高低がある2人の新入社員が同じ上司の下で働いた場合、資質の高い方が成長に有利だとしている。
ただし経験は、学習などによって時間をかけて積み上げるものであり、それを磨くためには資質が必要となる。「経営トップに成長するためには、多数の社員の中から選抜され、競争に生き残り、鍛錬を繰り返すことが不可欠である。従って、あらかじめ資質があることが重要で、そうした人物を鍛えることで効率を上げることができるのだ」と高木氏は説明する。
ある内科医による経営者(会長、社長経験者)約50人を対象にした事例調査によると、彼らは精神ストレス耐性および肉体疲労耐力が非常に強いことが明らかになっており、これらを含めて経営能力に対する遺伝子レベルの影響は強いと見られている。
「次世代の経営者は教えるものか育つものか、すなわち経験か資質かと考えたとき、もちろん経験は不可欠だが、それ以上に資質の占める割合が大きい。相乗効果を上げるためには、早期に資質ある人材を見つけ出し訓練環境に置くことが重要だ。ただし、(最初から絞り込むのではなく)多様な人材プールを保って選抜すべきだろう」(高木氏)
※早稲田大学IT戦略研究所が開催した「7周年記念コロキアム」での講演を基に構成。
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明治学院大学 経済学部准教授