経営環境の変化により、製造、流通、バックオフィスの業務改革が着実に進む中、唯一取り残されているのがB2Bの営業現場だ。「気合、根性、経験」の属人的3K営業手法から脱却するための施策はあるのか。
「営業のプロセス分業体制構築+リソースの適正配置で、属人的営業スタイルから脱却せよ」――本書を通じて著者が訴えるのは、営業改革の必要性だ。かつて企業の花形ともいわれた営業が、いまや「気合、根性、経験」の3K職種と呼ばれるまでになってしまった。ビジネス環境の変化に伴い、流通改革やITによるバックオフィスの改革など、コスト削減と業務効率化に向けて企業の各部署が取り組みを進める一方、営業部隊、とりわけ法人営業の現場は唯一その流れから取り残され、まるで手法の変わらない「聖域」となってしまったのだ。
従来の法人営業の形態は、リード発掘から受注・成約までを一人の営業マンが担っていたため、新規顧客開拓はままならず、売上げの多くは既存顧客に依存するものだった。しかし、モノが売れなくなったこの時代、そうした方法では立ち行かなくないのは誰の目にも明らかだろう。
けれども、高度経済成長とともに「作れば売れる、売ればもうかる」営業しか経験してこなかった現在の企業経営者、営業部門の管理職には、時代の変化に応じた営業手法が見当たらない。そして、「目標を達成するまでとにかく頑張れ、取れるまでやれ」が横行する3K職種へと成り下がってしまったのだ。
日本IBMの営業部門長を経て、日本シーベル立ち上げにも参画したCRM(顧客情報管理)のパイオニアともいえる著者は、営業現場の現状に強い危機感を抱く。そこで、旧弊な営業形態から脱却する手段として「ハイブリッドセールス戦略」を提案し、「ハイブリッドセールスモデル」「プロセス分業」「インサイドセールスの活用」「リソースの適正配置」といった観点から、かつて日本企業では考えられなかった戦略的、組織的営業手法を1冊を通して述べていく。
本書によると、ハイブリッドセールス戦略とは、従来の対面営業(フィールドセールス)と、電話・Web・メールなどを活用する非対面営業(インサイドセールス)によって営業プロセスを分業化し、リソースを適正に配置するというものだ。なお、ここでいうインサイドセールスとは、内勤の営業アシスタントとは主旨が異なる。
プロセス分業制を敷き、各工程にKPIを設定すれば、「営業」の一語でくくられ受注成約率(額)が唯一の成果指標だった従来とは、組織のあり方が根本から変わってくる。また、一気通貫型で全プロセスを一人で担っていた営業マンは得意分野を持つことができ、かつて「できない営業」と烙印を押されていた人材も、分業化された一工程においては能力を発揮できる可能性が高まる。
プロセス分業にはインサイドセールスの有効活用が必須となるが、詳細は本書に譲るとして、「テレマーケティングとテレセールスは似て非なるもの」であるという、ハイブリッドセールスを語るうえで欠くことのできない著者の主張だけ、ここでは付しておきたい。
激化する経済環境と加速する人材の流動化によって営業力を低下させない、組織防衛のヒントを盛り込んだ1冊といえるのではないだろうか。
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早稲田大学商学学術院教授
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明治学院大学 経済学部准教授