【第5回】ビジネス・インテリジェンス力を高め非連続な変化を先取り変革期をリードするIT経営者(4/4 ページ)

» 2010年08月23日 08時00分 公開
[加藤陽一(日本IBM),ITmedia]
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活用事例(1) 経営管理

図5.KPIの選定

 IT化が進んだことにより、蓄積されるビジネスデータの量も種類も増大し、経営者に提供できる情報も格段に増えました。しかし一方で、見るべき指標が多すぎる、目標達成に影響を与える要因は膨大にあると想定されるが、結果として見なければならない情報を見落としたり、見る必要の無い情報の集計に時間をかけたりしている可能性があるといった課題が浮かび上がってきました。

 そのため、企業内外の膨大なデータの中から、目的の業績指標と相関や因果関係のあるKPIを選び出し、それらの関係の変化をモニタリングし、将来の影響を予測する取り組みを始めています。具体的な施策としては目標との関係が想定される過去データの収集と、KPIの導出、KPI数値の自動収集の仕組構築、予測型マネジメントの導入、目標値とKPIの関係性変化の自動検知と、新KPIのメンテナンスなどです。その結果、有効なKPIの絞込・可視化、情報収集・分析時間の効率化

的確なビジネス状況の把握、施策タイミングの早期化が図れるとしています。(図5)

活用事例(2) 異常検知

 米国の保険会社や健康保険組合では、保険金の不正請求により不必要な支払いをしており、利益の低下を招いています。例えば、架空請求・付増請求・振替請求・二重請求といった不正が、総医療費の10%に上ると言われています。

 しかし、膨大な請求情報を手作業でチェックし、不正請求を識別するのは量的に困難です。そこで、不正請求の行動/パターンの仮説の検討/設定し、仮説のデータモデル化した上で、データマイニング機能や視覚化機能を使って多角的に分析し、変則的な請求を発見することができました。絞り込まれた請求を調査員が重点的に調査することで、不必要な支払いを削減し、利益率を向上させることができました。

活用事例(3) コンテンツ管理

 製造業において、製品・サービスに関するドキュメントは必須です。例えば、自動車の修理工が使う分厚いサービスマニュアルや電気製品の取扱説明書などが挙げられます。

 グローバル企業においては、これらのドキュメントは、新車発売・新製品販売を行うのと同じタイミングに、数十ケ国語に翻訳されて配布される必要があります。この翻訳作業の効率化は大きな課題です。また、サービスマニュアルは、一般に車種ごとに個別に製作されています。しかし、よく見てみると、サービスマニュアルの内容は、平均して80%程度は車種によらず共通です。つまり、共通部分を1つだけ作成し、車種ごとに違う部分だけ車種単位で作成し、最後にそれらを組み合わせることにより、きわめて効率的にサービスマニュアルが作成できます。

 この結果、グローバルなコンテンツ展開や更新・修正のスピードアップ、製品発売時のドキュメント作成・配布を通じたサービス体制の迅速な立上げ、グローバルでのコンテンツ作成・保守・管理業務の標準化・効率化を通じたコスト削減を実現しています。

 このように、ドキュメントの効率的な作成・保守やグローバル対応を実現するのが、XMLベースの文書アーキテクチャのDITA (Darwin Information Typing Architecture)です。DITAは、製造業におけるサービスマニュアルだけではなく、金融機関や公共分野でも使用されています。

 ビジネス・インテリジェンスの第3段階はビジネスへの本格適用が始まっており、クラウドコンピューティングとともに、変革期をリードするIT経営者が早急に取り組むべきテーマであると言えます。ビジネス・インテリジェンスをどの業務領域に適用し、どのようなビジネス成果を目指すかは経営者自身が考える必要があります。対象とする業務領域において成果を上げるためには、幅広い視野、視点から仮説を設定するスキル、モデル化のスキル、データ収集・分析のためのツールを活用するための高度なスキルをもった人材の組成が必要です。

 次回(最終回)では、「スマートなビジネスモデルの実現」と題して、地球に優しく、人に優しい次世代の“スマート”なビジネスモデルをいかに実現していくかについて、提言および事例紹介をさせていただきます。

著者プロフィール

加藤陽一(かとう よういち)

日本アイ・ビー・エム(株)グローバルビジネスサービス事業 ビジネスイノベーションサービス パートナー 国際CIO学会常務理事

1984年3月、電気通信大学電気通信学部情報数理工学科卒、同年4月日本IBM入社。金融機関担当営業部門において顧客担当システム・エンジニアとして顧客企業の情報システム企画、構築、運用の技術支援を担当。1995年に日本IBMのコンサルティング サービス部門に異動し、金融機関、製造業、流通業、公益企業の事業戦略、業務改革、IT戦略、IT構造改革のコンサルティング業務に従事。2002年からIBMビジネスコンサルティングサービス 戦略グループ・ITトランスフォーメンションコンサルティングのリーダー。2007年1月、同社戦略グループ IT戦略コンサルティング担当パートナーに就任。現在に至る。



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