「リーダーの資質」である「グローバル志向」には、日本CEOの苦悩と、同時に弱さを垣間見ることができる。
増岡直二郎氏による辛口連載「生き残れない経営」のバックナンバーはこちら。
米IBMが、世界の主要企業のCEOを対象に「経済環境の複雑さへの対応」をテーマに調査した結果を2010年5月に発表した。その後、この調査で世界と日本のCEOで大きく異なる結果が出ているので掘り下げてほしいというリクエストがあったらしく、調査結果から日本のCEOの傾向を深く分析した「Japan Report」が発表された。
IBM執行役員は「“日本のCEOが遅れている”という指摘もあるが、むしろ現在の状況を正しくみているのではないか」と分析する。しかし、発表されている情報からだけの判断だが、「日本のCEOはずれているのではないか」と危惧される点が、少なからず見受けられる。IBMの調査結果を見て、日本のCEOに危うさを感ずるのは、筆者だけだろうか。
以下、IBM発表の「IBM Global CEO Study 2010」、「同Japan Report」、およびIBMプレスリリースの内容を基に分析を試みる。こういう見方もある、という1つの提言である。
まず調査の概要だが、CEOの抱える課題や関心を分析するために、2年ごとに世界主要企業のCEO、経営層、公共機関のリーダーを対象に、IBMコンサルタントがインタビュー形式で調査を行う。今回は、世界60カ国、33業種、1541名(うち、日本は171人)のCEOを対象とした。今回調査の総括的内容として幾つかのポイントをピックアップすると、世界的経済危機を経験したあと、現在の経済環境が複雑と見るCEOの比率が60%で、今後5年間で複雑性が増すと予測するCEOが79%、一方で大半が準備不充分(準備できている比率49%)だと認識している。
しかし、世界的経済危機の前後とも好業績を続ける企業は、「複雑性への認識」と「複雑性への準備状況」のギャップが少ないという結果が出た。さらに、好業績企業のCEOは次の3領域に注力している。(1)「創造性」が最も重要なリーダーの資質で、周囲に納得感を醸成するコミュニケーションを志向、(2) 激増する情報から洞察を引き出すことが重要、(3) オペレーションの複雑さを単純化することを重視、だ。
さて問題は、こういう世界のCEOの認識傾向と比較した日本のCEOの認識である。
日本のCEOの認識について問題と思われる点を、いくつか拾ってみよう。
まず、そもそも経済環境や社会問題に関する認識についてだが、世界と日本のCEOの間に大きな差があり、日本のCEOの考え方に矛盾を感ずる。新たな経済環境は「従来とは構造が異なる」としたCEOは、世界で53%に対し、日本で82%になるにもかかわらず、「今後5年間に克服すべき課題の複雑さ」について、「実質的に複雑だとは思っていない」と認識するCEOは、世界で10%に対し日本は35%、「いまだかつて無い複雑さである」と認識するCEOは、世界で79%に対し日本は41%となっている。
その結果だと思うが、「将来動向について予測できない」とするCEOは、世界65%、韓国92%に対し、日本は38%で、日本CEOは新たな経済環境の構造も要因も従来と異なるとしながら、なぜか複雑さを認めず予測可能としている。その姿勢に、矛盾と状況判断の甘さを感じざるを得ない。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
株式会社CEAFOM 代表取締役社長
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明治学院大学 経済学部准教授