某中堅企業から「いかに顧客を創造して行くか」をテーマにコンサルティングを依頼され、社内意見の聴取を行ったとき、多くの管理者が意外な不満を口にした。
増岡直二郎氏による辛口連載「生き残れない経営」のバックナンバーはこちら。
「おーい、週報のネタはないかあ。……差し障りのない情報大歓迎だぞう。わっはっは」
ある金曜日の昼下がり、某大企業A社のある事業部長室の前、突然部屋から出あてきた事業部長が、広いフロアに向かって大声で怒鳴った。在席の社員は、まったく反応を示さない。無視である。どうやら雰囲気から察すると、ほとんど毎週の出来事なのだろう。
これほど情報があふれているときに、まだ情報を欲しがる経営者がいるものだ。しかも、およそ役にも立たない、自己満足に過ぎない情報を。
先般、某中堅企業から「いかに顧客を創造して行くか」をテーマにコンサルティングを依頼され、社内意見の聴取を行ったとき、多くの管理者が意外な不満を口にした。「トップ、経営者への社内報告が多過ぎる」と。週報・月報の提出、業務報告を求められ、手間が掛り過ぎるというのだ。これほど異口同音に苦情が出るのは、よほどひどい状態なのだろう。
つい、冒頭の出来事を思い出したわけだが、珍しい話ではないようだ。
A社で、社長が目ぼしい事業部長、事業所長(研究所、工場)に、週報を提出させた。対象者が全社で50人以上はいたから、半分提出させたとしても25人の週報を社長は毎週読み、几帳面に返事でコメントを出していた。なぜかメールでなく、社内郵便で送らせ、返事は手書きだった。返事の文字がことのほか読みにくく、返事をもらった幹部は解読に苦労をした。
やがて社長の真似を始めたのか、副社長も自分の管轄下の管理者に、週報を書かせ始めた。それ以来この副社長が、大きな会議の席上で時々、現場の細かな出来事を引用するところをみると、明らかに自分のところに回ってくる週報から拾った情報であり、そしていかに自分が現場を把握しているかを誇示しようとしているかが見え見えだった。何万人もの従業員を抱える大企業の副社長に上り詰めた男が、隣に座るたった一人の上司(社長)に、いまだに、そこまで自己宣伝したいものか。哀れでさえある。
社長・副社長へ重ねて週報を書かされる方も大変だが、毎週数十人の週報を読んで、返事をコツコツと書く内向き志向の大企業の社長・副社長も、想像しただけで、こちらの気持ち悪くなる。大局を見失わなければよいがと、余計なことを考える。
それにしても、先の事業部長の「差し障りのない情報大歓迎」の怒鳴り声は、上司にはそういう情報を提供するものだという、誠によい教育になっている。
なぜ週報が、好ましくないのか。都合の良い情報、無難な情報しか集まらないからである。部下に定期的情報報告をさせると、部下はいかに良い情報を提供するかに注力する。「良い情報」がないときは、「無難な情報」を探す。それが人情というもの、そんなことは週報を書かせる経営者は自分の昔の立場を思い出せばすぐ分かるはずなのに、それでも書かせるというのは情けない。
さらに問題なのは、経営者に週報を書く管理者が、自分の部下にネタを提供させために週報を書かせる……という具合に屋上屋を重ねることになる。無駄の積み重ねである。そして、経営者間、管理者間の週報合戦が始まる。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
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明治学院大学 経済学部准教授