人は制度だけでは変わらない。人は他者の期待や支援があってより望ましい姿に変わる。
前回は、50代社員がポスト・オフ後、新しい環境への前向きな適合を図る『キャリアトランジション(移行)』の現実を眺めた。一つの結論は、自分自身が新しい環境適合のために「自己調整」を行い、「仕事とともに自分らしく生きる」ところまで、“自己昇華”できれば、新たな「自己一致感」が形成され、「働く幸せの発見と自覚」が生まれることについて述べた。
人は制度だけでは変わらない。人は他者の期待や支援があってより望ましい姿に変わる。50代社員をうまく活用するには「育成投資」ではなく、残りのキャリアを活用する「回収投資」の発想をもてばよい。まだあと10年は優に(働く人たちだ。企業期待を理解させ、前向きな目標と貢献意欲をもって一生懸命働いてもらう仕掛けや枠組みを作ることだ。今回は、多くの企業で取り組んでいるキャリアデザイン研修など、キャリアショックに直面にする50代社員に必要なキャリア支援の取組みについて考えていきたい。
筆者の会社では、40代、50代のキャリアデザイン研修を多くの企業から受託している。冒頭の言葉はある会社の役職定年を控えた、50代部長クラスを対象とした研修での個人発表の一幕だ。
50代社員の多くの方は、上昇余地が限られる中で「下降と離脱」に直面する。 「もう少し自分をうまく活用してくれないか、まだ頑張れるのに……」という切ない思いを抱きながらも、結果的には、ほとんどの方が、会社が用意した役職定年制度などに従う。厳しい中高年の雇用市場の中、この年代で自ら挑戦的な転職・再就職に踏み出す人はまれである。
本当は仕事があるだけでもありがたいのだが、目は社内にしか向かない。「給与は少し安くなっても我慢して働くしかない」その諦めの感情の裏返しから、上記のような“余生”感覚となりがちである。今後、65歳までの雇用延長が進み、ますます肥大化する50代・60代前半層社員を抱える企業にとって、残る仕事人生を“余生の消化試合”気分で居られては困る。ここに50代の活性化と活用を促進する企業の施策が必要とされているのだ。
どの企業も30代・40代なら管理職研修、専門スキル習得のための人材育成投資を惜しまないだろう。育成投資のあとは貢献による回収期だ。だが、50代となると役職者を除き、一般社員に育成投資はほとんどないのが実情だ。しかし筆者が企業に持ってもらいたい視点は、50代の残る在社期間を、仕事目標と貢献意欲を持ちながら、うまく組織適合させ、企業貢献させる「回収のための投資」の発想だ。
役職定年などでポスト・オフになっても、その前後で個人の能力、身体機能に大きな差はない。明らかに低下するのは、「仕事意欲」であり、これが後の働き方で様々な問題を生む。このショックを早期に乗り越え、本来の生産性に貢献させるためのキャリア開発に再投資する、これが「回収投資」である。
役職定年に限らず、50代はそれまでの仕事人生の統合期にあたる。50代をセカンドキャリアのスタート期とすれば、それは今までのキャリアを再構築(リ・デザイン)するところから始まるのである。取組みの視点は、単に目先のキャリアショックを癒す対処に止まらない。一段高次の「自分の価値」を生かし、どのような働きをして企業貢献し続けるか、自分らしく幸せに生きるか、そのキャリアとライフ全体をどのようにデザインするかを問うことだろう。
この基本的な課題認識を持ちながら、企業の実情に応じ、対象者に理解してほしい環境認識、感じ取らせたい組織期待と意識転換、職場での望ましい行動など一連の支援策が必要とされる。具体的には(1)個人のキャリア&進路面談、(2)キャリアデザイン研修、(3)能力再開発などの職場適合支援である。50代のキャリア活性化と活用を促進する企業の施策・支援は企業主導で行うべきであり、キャリアの方向性を考えるときに、個人任せにするのはあまりに負荷が大きいし、“脱線”のリスクが高い。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
株式会社CEAFOM 代表取締役社長
株式会社プロシード 代表取締役
明治学院大学 経済学部准教授