ヤマモリ社では、これまで日本国内向けの輸出用のみとして、タイで製造していたレトルトタイカレーを、昨年2010年11月から、タイ国内でも販売を開始したそうだ。
タイに住む日本人で、日本国内でこのレトルトタイカレーを食べて、気に入っていた一般消費者から、“なぜ、タイでは売っていないのですか? ”という問い合わせが増え、こうした声に応えて、タイ国内での販売を開始したという。日本人観光客や、日本人駐在員が一時帰国する際の日本へのお土産としても購入されるようになり、評判も上々だそうだ。これは、なかなか興味深い事象である。
ヤマモリトレーディング社を通じて近年展開してきたタイの市場と、親会社であるヤマモリ株式会社がもともと対象としてきた日本の市場。この2つの市場の間で相乗効果が生まれる兆しがある。これはもちろん、タイと日本の間での人の行き来が多いことが理由と考えられるが、今後ますます増えていくことを考えると、より大きな相乗効果が期待できるだろう。
先ほどのレトルトタイカレーのように、日本でヤマモリ社の商品を気に入っていた人たちが、タイの市場で普及・展開するだけでなく、例えば、ヤマモリ社の醤油や調味料をタイで愛用していた日本人が日本に戻ったとき、日本でもヤマモリ・ブランドの商品を買い求め、口コミによる広告宣伝効果が期待できるかもしれない。
日本市場での事業展開とタイ市場での事業展開が両輪となって、相乗効果を発揮する。これこそ目指すべきモデルと言えるだろう。今、ヤマモリ社は、その段階に向けて、歩を進めているところである。
これまで述べてきたとおり、ヤマモリ社のタイ市場での事業展開には、日本企業がアジアとともに“新興”する上での重要な鍵が含まれており、わたしたちにとって、大きなヒントになるだろう。改めてまとめると、以下のような点が挙げられる。
(1)アジア新興国内外のビジネス環境の変化や経済状況の動向に、自社の事業展開の歩調を合わせることで、これまでとは異なる領域の異なる顧客へリーチしていくことも可能である。
(2)アジア新興国内で既に存在する市場を狙うだけでなく、慣習・文化の変化を喚起・増幅させ、新たな市場を起こし、切り拓くことも可能である。
(3)アジア新興国で実施されている社会的な取り組みや成長戦略と協調することによって、その社会に貢献するだけでなく、自社の商品やブランドを普及させることも可能である。
(4)アジア新興国内の市場と日本国内の市場を両輪として相乗効果を求めていくことも可能である。
辻 佳子(つじ よしこ)
デロイト トーマツ コンサルティング所属コンサルタント。システムエンジニアを経た後、アクセンチュア・テクノロジー・ソリューションズにて、官公庁や製造業等の企業統合PMIに伴うBPR、大規模なアウトソーシング化/中国オフショア化のプロジェクトに従事。大連・上海・日本を行き来し、チームの運営・進行管理者としてブリッジ的な役割を担う。現在、デロイト トーマツ コンサルティング所属。中国+アジア途上国におけるビジネスのほか、IT、BPR、BPO/ITOの分野で活躍している。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
株式会社CEAFOM 代表取締役社長
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明治学院大学 経済学部准教授