究極の競争優位はどこから生まれてくるのかNTT DATA Innovation Conference 2012レポート(2/2 ページ)

» 2012年02月10日 08時00分 公開
[大西高弘(ノーバジェット),ITmedia]
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「顧客の体験」の体験が面白いストーリーに

 楠木氏はその打ち手について、「顧客の体験」を重視した発想から生まれたものだと解説する。

 「eビジネスの優位性を365日24時間いつでも利用できることだ、ということは誰もが言っていた。しかしそれはやろうと思えばライバルである店舗を構える書店でもできる。Amazon.comはいつでも開店していて、訪れると自分専用の陳列棚があり、購入すると素早く手に入れることができるという経験を顧客に提供しようと考えた。だから、巨大な倉庫を作り在庫を持ったのだ」(楠木氏)

 Amazon.comのリコメンド機能やほしい物リストは、多くの人が活用している。ただしこれはWebビジネスの優位性を具体化したもの。顧客が本を手に入れるスピードは顧客が書店で購入するケースを想定すれば、とてもかなわない。しかしかなわないにしても、そのスピードの差を縮めることができ、どんな本でもほぼ翌日手に入れるようにすれば、顧客は驚きの体験をすることになる。そのためには適正な数量の在庫がどうしても必要になる。

身を乗り出して聞いてもらえるストーリー

 Amazon.comの巨大倉庫を建設して在庫を抱えるという戦略は、「糸屋の娘」の転の部分「諸国大名は弓矢で殺す」を地でいくものだ。聞いている者が「どういうこと? それでどうなるの?」と聞きたくなるようなところがある。

 eビジネスのメリットの側面だけからネット書店のビジネスを説明されるのと、「こんな体験ができるんだよ」とAmazon.comのサービスについて聞かされるのと、どちらが面白いだろう。戦略ストーリーの起承転結の転を考える上で、どちらが役に立つのかを考えれば、当然後者になるだろう。

 楠木氏は優位性を確立している企業の戦略ストーリーはすべて面白いと話す。

 「年度始めなどに経営者や部門のリーダーが戦略を語ることがあります。そこであくびが出てくるような話しかできない人は、即刻退場してほしい。人の貴重な時間を無駄に使っている。思わず身を乗り出して聞きたくなる戦略を語ってほしい」

 この発言の後には笑いが起こったが、今までとは違い少し静かめの笑いだった。

 「ストーリーとしての競争戦略 ―優れた戦略の条件」には、Amazon.com以外の企業についても詳細に書かれている。同書にも記されているが、戦略ストーリーはサッカーのゴールシーンまでの軌跡に似ている。相手の動きを見越した「キラーパス」があるのだ。ビジネスにおいて、そんなパスを繰り出すのはたやすいことではない。しかし部下に退屈顔をされるぐらいなら、知恵を絞ってみようと感じた聴衆も多かったことだろう。

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