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» 2012年08月13日 08時00分 公開

マニュアルはどのようにして世界に伝わったかマニュアルから企業理念が見える(2/2 ページ)

[勝畑 良(ディー・オー・エム・フロンティア),ITmedia]
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マニュアルは国際標準規格の中心である

 世界貿易機構(WTO)で推挙されている国際標準は、スイスのジュネ−ブに本部を置く、国際標準化機構(Organization of International Standardization)で統括管理されている。世界でこの機構に参加している国は約150か国である。ここでは、国際標準の各項目ごとに、専門家による技術的チ−ムが結成されている。そして、このチ−ムが標準原案を作成する。標準原案は加盟国の投票に付され、その3分の2以上の賛成が得られたとき、初めて国際標準としての資格が与えられる。

 各国の企業がこの標準を獲得したいと希望した時、各国にある国際標準認証機関に申し出て、所定の審査を受ける。審査に合格すればその企業は、経営のその項目に関する管理が国際標準であることを証明されたことになる。

 この国際標準は、該当項目の方針、管理、作業手順、現場記録といった縦のラインと受注、生産、購買、教育、品質管理といった横の職能との組み合わせになっている。それぞれがマニュアルによって明示され、この縦と横の連携によって、企業が顧客満足を実現しているかが審査される。マニュアルはここまできたのである。国際標準に基づく管理とは、マニュアルによる管理である。

 品質管理という項目の国際標準は国際標準化機構の略称を付して、ISO 9001と呼ばれている。わが国でこの国際標準の審査に合格している企業は約5万件に達している。相当マニュアルに熟達していなければならない。しかし、わが国の企業はマニュアルを自分のものにしようとしなかった。国際標準を帽子の徽章のように扱った。その結果、わが国の国際標準企業は、審査のときだけマニュアルを整備し、これを普段は飾っておく企業が多くなった。理由は面倒だということである。口で言えばすむことをいちいち書く必要はないと考えたのである。審査さえ合格し、資格さえとれれば目的は達したと思っている企業が大部分である。

 国際標準はなぜ合格し、これを順守しなければならないかを考えてみなくてはならない。世界貿易機構がなぜシステムの明示化を要求するのであろうか。彼らは自由な公益は物品の自由な交流だけでは公平に行われないと主張しているのである。人材、サ−ビス、商業慣習などが公平に交流できる環境がなければ、貿易の自由化も達成できないと考えている。この基礎の上に自由な貿易が担保されると主張している。表面的に審査だけ合格すればよいというのは、相手を愚弄(ぐろう)するもの。

 世界の現況を考えれば自明のことである。われわれは、今まで自分のやり方を本質的には変えずに、事態をやり過ごすにはどうすればよいかと思考する。貿易だけを自由化し、後は自分に都合よく、最低限の妥協で現在の立場を守るのが優れた考えだということになっている。しかし、この考え方は長続きしない。

 貿易赤字国は、必ず不満を表明する。必ず今よりレベルの高い公平化原則を持ち出してくる。それは対等な交易とは何かという主張であり、基礎は明示原則である。ごまかしはきかない。内側は変えずに、外側だけ平等にしているというやり方 は最悪の選択肢である。

 現代の不況は、永続的赤字に苦しむ相手国が円相場を高めることによって貿易不均衡から脱しようとしているのが原因である。このためには、明示の原則に基づき、わが国の実態を知らしめ、理解を求めるところから出発しなくてはならない。円相場は市場原理で動く。結果が全てである。

 企業経営が明示の方向に動くのはまちがいがない。今の不況が従来の不況と全く異なっていることからもこのことは明らかである。 倒産企業のほとんどが社歴20年以上の中堅企業だという事実である。決して小さな企業がつぶれているのではない。つまり、経営の袋小路にはまりこみ、明示による経営に遅れをとった企業が倒産しているのである。

 これからの企業は、顧客の要望に応えていかなくてはならない。顧客は安全、安定、公平の3つの希望を充足させようとしている。この3つを満足させるのは、明示経営の原則である。明示経営はマニュアル経営が現実的である。口先だけというのは政治家だけで沢山だと顧客は考えている。

 マニュアルを持たず、作らず、持ち込まずに明示経営はできない。これからの時代を生き抜くためには、共同体感覚をもった社員による行動中心の経営を志向するほかはないと信じている。

著者プロフィール

勝畑 良(かつはた まこと)

株式会社ディー・オー・エム・フロンティア 代表取締役 

1936年東京生まれ。慶應義塾大学経済学部を卒業後、1964年にキャタピラー三菱(株)に入社。勤労部、経営企画部、資金部を経て、1986年、オフィス・マネジメント事業部長としてドキュメンテーションの制作、業務マニュアルの作成、語学教材の発行などさまざまな新規事業に取り組み、1992年4月、業務マニュアルの制作会社である(株)ディー・オー・エム(現在:株式会社ディー・オー・エム・フロンティア)を設立し、代表取締役に就任。「いま、なぜマニュアル革命なのか?」(『企業診断連載』)で平成2年度日本規格標準化文献賞<最優秀賞>受賞など論文多数。


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