フロントオフィス・イノベーション――CIOは社内企業家「イントラプレナー」となれGartner Column(2/2 ページ)

» 2012年09月11日 08時00分 公開
[小西一有(ガートナー ジャパン),ITmedia]
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テクノロジは企業固有の違いを生み出せる

 今日のテクノロジには、ビジネスモデル(図1を参照)を変える力、ビジネス競争の場を対等にする力、そして、新しくて面白い方法で企業と顧客を結び付けられる力があります。

図1:ガートナー・ビジネスモデル・フレームワーク

 しかし、企業環境はそれぞれに特有であるため、単に競合他社をまねるだけでは同じ結果は保証されない。ガートナーの調査によると、既にフロントオフィスで成功を収めたCIOは、同業種の競合他社だけにフォーカスしているのではなく、他の業界、他の市場、他のタイプの企業にある効果的なアナロジー(自社に採り入れられる類似点)を模索しています。そして、以下に狙いを定めて邁進していることが分かっています。

 ・プレーヤー間でほとんど差別化されておらず、テクノロジの戦略的適用によって参入障壁を下げたり、競争力を改善したりすることが可能な、均質化された市場

 ・フロントオフィスの起案者(プロデューサ)を定型業務から外し、顧客にフォーカスできるようにすること(これは単発的なプロジェクトの積み重ねのように見えるが、これによって最終収益に実益を与えることができる)

 ・顧客経験価値における真実の瞬間を改善する方法 ― 企業の差異化を推進する上で、大口のテクノロジ購入者である最高マーケティング責任者(CMO)に積極的に関与することも含まれる

ゴールは「社内企業家精神(イントラプレナーシップ)」である

 「イントラプレナー(社内企業家)」は、「アントレプレナー(起業家)」とは異なります。社内企業家は、孤立した形で事業を行うのではなく、内外部の協力者と堅牢なネットワークを構築して、製品、市場、チャネルにある機会を発掘するからです。

 イノベーションは、バックオフィス、フロントオフィス(セールス、マーケティング)、場合によっては顧客をも含むバリューチェーン(価値連鎖)のあらゆる場所で生じる可能性があると、社内企業家は認識しています。社内企業家は、成り行き任せにはしません。ただ座ってひらめきを待つことはせず、イノベーションは反復的でコラボレーティブな活動であると認識しています。

 また、単なる漸増的改善ではなく、一気に差異化をもたらすイノベーションの「種」として発芽する可能性の高いものを厳選するために、イノベーション・パイプラインを「脱穀」 し「もみ殻」を吹き飛ばすという周到なプロセスに従っています。

 日本ロレアルの情報システム部統括部長 危機管理室室長である田中美華子氏率いる情報システム部は、フロントオフィスの機会を掘り起こすために、極めてコラボレーティブな方法で協働しています。新たな発想を得るためにロレアル・グループ内の他部門と連携しているのはもちろん、ビジネス上のパートナー企業、ベンダー、サプライヤー、広告代理店、マーケティング会社とも絶えず情報交換をしています。

 この方法によって、多層的な市場視点(マーケット・ビュー)を得ているほか、優先課題が正しいことを確認し、イノベーション・パイプラインを構築している。「化粧品市場で競争に参加するためには、競合他社が何を行っているかをあらゆるレベルで知る必要があります。しかし、真の差別化のためには、競合他社が“何を行っていないか”に着目して、自社のエネルギーとリソースをそこに集中させる必要があるのです。」と田中氏は語っています。

 日本ロレアルのイントラプレナー(社内企業家)は、自らの強みと弱み、そしてチームメイトや競合他社の強みと弱みを完全に把握したチーム・プレーヤーです。同社でのイノベーションは、単独行動によって孤立して開発されるものではありません。膨大な情報源からの情報、知見から導かれた反復可能なプロセスです。社内企業家の役目は、最高の機会を特定し、これを競争優位性へと転換することなのです。

 いよいよ、間近に迫ってきました「Gartner Symposium/ITxpo 2012」では、特にCIO(最高情報責任者)、ITエグゼクティブ向けに、CIOトラック、CIO特別プログラムを用意して皆さまへの戦略的アドバイスが可能なよう万全な体制で臨んでいます。これらCIO向けのトラック、特別プログラムのプロデュースを担当したわたしから今年のテーマを簡単に説明しましょう。「ビジネスのデジタル化」、「ビジネスモデル・イノベーション」、「フロントオフィス・イノベーション」です。つまり、ITの価値を最大限に高めるための領域を特定し、そこでどのように活躍しなければならないのかを、テーマとしています。海外からは、CIO向けの世界トップアナリストが来日し、海外の先進的な取組みや、留意点を披露します。それでは、お台場にてお目に掛かりましょう。

著者プロフィール:小西一有 ガートナー エグゼクティブ プログラム (EXP)エグゼクティブ パートナー

小西一有

2006年にガートナー ジャパン入社。CIO向けのメンバーシップ事業「エグゼクティブ・プログラム(EXP)」において企業のCIO向けアドバイザーを務め、EXPメンバーに向けて幅広い知見・洞察を提供している。近年は、CIO/ITエグゼクティブへの経営トップからの期待がビジネス成長そのものに向けられるなか、イノベーション領域のリサーチを中心に海外の情報を日本に配信するだけでなく、日本の情報をグローバルのCIOに向けて発信している。


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