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» 2012年11月22日 08時00分 公開

「等身大のCIO」ガートナー重富俊二の企業訪問記:生保のITは難しく複雑だからこそ面白い (2/2)

[聞き手:重富俊二(ガートナー ジャパン)、文:大井明子,ITmedia]
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ベンダーとユーザーは、対等なパートナーであるべき

 ――福島さんは、アフラック入社以前にも、システムベンダーやユーザー企業などでの多彩な経歴をお持ちだ。日本のITユーザーとベンダーの関係について、どう見ているか?

アフラックの福島氏(右)、ガートナーの重富氏

 わたしはユーザー、ベンダーの両方にいたのでこの点で感じることは非常に多い。

 多くのユーザー企業はベンダー企業を「業者」と見ているところがあるように思う。「カネを払っているんだから、こちらの言う通りやれ」「とにかく安くしろ」という要求ばかりする。ベンダー側もへつらって、できないことでも「分かりました」と言って要求を飲んでしまう。

 しかし本来は、契約に基づいた対等なパートナーシップであるべきだ。主従の関係であってはならない。双方対等に主張し合い、議論する方がより良い結果を出せるはずだ。

 わたしはベンダーにいたころも、ユーザー企業に対して、できないことは「できない」とはっきり言っていた。お陰で「出入り禁止」を食らうこともあったが(笑)。

 ――日本の大手生命保険企業と、外資系生命保険企業で、ビジネス面、IT面の違いは?

 両者はその成り立ちや商品構成、販売方法などが大きく違い、従ってITのあり方も大きく違う。

 米国には、約1000社を越すほどの保険会社があり、州によって保険に関する法律も違うためローカルで事業を行っているケースが大半だ。1社1社の規模も小さい。そうすると、商品構成や契約手続き、販売管理などを自社で考えて個別にシステムを作るのは効率が悪い。汎用的な保険業向けパッケージソフトを導入して、それに合わせて事務手続きを行う方が効率が良いため、「オペレーションをパッケージに合わせる」のが一般的だ。

 この手法をそのまま日本に導入しようとしても、失敗してしまう。日本の場合は大手が中心だし、商品構成も複雑でそれぞれ独特。パッケージを導入する際も、自社のやり方に合わせてカスタマイズしようとする。しかし、パッケージはカスタマイズしてしまうと全く意味がない。パッケージが悪くて導入に失敗するわけではないのだ。

 こうした違いは、ほかの業界にも共通している。欧米は社員の定着率が悪く、人種や文化も複雑だ。このため、できるだけ事務作業は簡単にしようとする傾向がある。ファストフードのマクドナルドが典型例だ。商品の種類は多くても、作業はシンプルに標準化し、マニュアル化することで、新しいアルバイトでもすぐにオペレーションできる仕組みを作っている。それを支えるITも、シンプルで簡単にメンテナンスできるものを追求する。

 一方、日本は微に入り細に入り、使いこなせないほどに細かい特色を持った複雑な商品やサービスを作ることにエネルギーを注ぐ。システムも同様で、結果あれもこれも盛り込んだ複雑な仕組みになり、メンテナンスが難しくなってしまう。

プロジェクトマネジメントとは「なんとかかんとかやり通すこと」

 ――キャリアの大半を保険業界のITに関わってきて、その特徴や面白さはどんなところにあると感じるか?

 保険業界のITという仕事は本当に興味深い。商品構成が複雑なうえ、保障期間が数十年という長期の商品も多い。大量のデータを長期に管理する必要があるので大変だが、挑戦しがいがある。難しいからこそ、どうITを駆使するかを考えるのが面白い。

 ――そうした、面白くも難しい仕事をする上でのポイントはどういったところにあるのか?

 大学を卒業して最初に入社した日本警備保障(現・セコム)のIT部門にいた27、8歳のころ、(後にセコムの成長を牽引する、機械警備システムの土台となる)全国のネットワーク化プロジェクトのプロジェクトマネジャーを務めた。その時、上司に言われた言葉が強く印象に残っている。「プロジェクトマネジメントとは何だと思う? マネジメントとは"管理"ではない。"何とかかんとかやり通すこと"だ」と言うのだ。

 つまり、プロジェクトマネジメントの基本とは、手綱さばきなのだ。たくさんの馬の手綱を持ちながら、でこぼこ道やいばらの道をどう越えていくか。人、カネ、時間が限られている中で、さまざまなステークホルダーと関わりながら、どうプロジェクトをやり通すかが成功のポイントなのだと思う。

 ――若いころに、そういった言葉に出会えたのは大きかった。

 今も、迷ったときにふと立ち返る教えだ。

 セコムは、大学を出て初めて勤めた会社なので、強く印象に残る経験が多かった。当時はまだ会社の規模も小さく創業者の飯田亮氏とも直接話をする機会が数多くあり、飯田氏の「否定の精神」という考えも心に刻まれた。「否定」といっても、すべてを否定するということではない。一度「ないもの」として考えてみることで原点に帰り、本質を見極めようという考え方だ。事業においても、「これがなかったらどうなるか」「今あるものをやめたらどうなるか」を考えると、答えが見えてくることがある。

 セコムに在籍したのは10年ほどだったが、今の自分は、当時の経験によるところが大きい。特に28歳までの、体力や気力にあふれてチャレンジ精神が旺盛で、吸収力がある時期に学んだことが、その後の自分の土台となっているように思う。

 そもそも、大学時代は留年もしたし、有名大学を出ているわけでもない「落ちこぼれ」だった。有名な会社に入ったとしても、ほかに優秀な人がたくさんいるので、やりたいことはできないだろう。むしろ、自由に仕事を任せてくれる会社で暴れるほうが面白い。

 同様に、順調に行っているプロジェクトは、誰がやってもうまくいくものだから、わたしはあまり、面白みを感じない。うまくいっていないプロジェクトの方が、やる気が出て気持ちが燃えるし、結果としてやり遂げたときの達成感も大かったように思う。

対談を終えて

 福島氏は警備保障会社を皮切りに、保険企業等のユーザーIT、ベンダーを経験するなど多彩なキャリアをお持ちだ。その転機の一つひとつに共通しているのが「困難への挑戦」であることを対談の中で感じた。ご自身も、「困難だからこそ面白いし達成感がある」と言い切られた。人間、頭で解っていても、実際に現実を正面から受け止め、必要な改革を腹を据えて実行する途をあえて選択し、挑戦を続けることは並大抵のことではない。改めて福島氏のエネルギーとタフネスを感じた対談であった。

プロフィール

重富 俊二 (Shunji Shigetomi)

ガートナー ジャパン エグゼクティブ プログラム バイス プレジデント エグゼクティブ パートナー

2011年 12月ガートナー ジャパン入社。CIO、IT責任者向けメンバーシップ事業「エグゼクティブ プログラム(EXP)」の統括責任者を務める。EXPでは、CIOがより効果的に情報システム部門を統率し、戦略的にITを活用するための情報提供、アドバイスやCIO同士での交流の場を提供している。

ガートナー ジャパン入社以前は、1978年 藤沢薬品工業入社。同社にて、経理部、経営企画部等を経て、2003年にIT企画部長。2005年アステラス製薬発足時にはシステム統合を統括し、情報システム本部・企画部長。2007年 組織改変により社長直轄組織であるコーポレートIT部長に就任した。

早稲田大学工学修士(経営工学)卒業


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