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» 2013年03月25日 13時06分 公開

U理論が導くイノベーションへの道:【最終回】「出現する未来」を実現する7つのステップ――実践:Performing (2/2)

[中土井 僚(オーセンティックワークス),ITmedia]
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生態系のプロセスとしての「実践」の原則

 生態系の進化のプロセスそのものとしての「実践」の原則は、水平方向(「境界」を超えた幅広い連携)と垂直方向(日常的な源「ソース」とのつながり)に展開されています。

水平方向と垂直方向に展開される「実践」の原則

1、水平方向:「境界」を超えた幅広い協働

 商品開発、全社的な変革プロジェクト、業務改善のためのシステム導入、コミュニティ活動、社会変革活動など、いずれの活動であっても誰かを通して出現し、結晶化され、プロトタイピングを経て形を与えられたイノベーションを生み出すアイデアは、既存の組織やコミュニティの中で大事に育てられることより、無視されたり、軽視されたり、時には握りつぶされるケースが多くみられます。

 とはいえ、「握りつぶされる」というのは、よほどの権力闘争がない限り、悪意を持って握り潰すというケースはほとんどなく、「悪意なく」握り潰してしまうケースが大半であるといえます。誰かが新しいアイデアを持って行動をし始めたとき、知らず知らずのうちに周囲の人が「お手並み拝見」モードや「コメンテーター」モードに陥ってしまう場面を幾度となく目にしてきました。

 前者の場合は、「何をしようとしているのか全貌がよく分からないし、中途半端に関わってしまっては、かえって迷惑がかかるのではないか?」という遠慮と正当化から生まれる「積極的な消極姿勢」であり、後者の場合は、「自分には業務を負担してあげる余力がないけれど、せっかくアイデアを出してくれたんだから、今の時点で分かる改善点は指摘しておいてあげよう。」という「コミットのない貢献姿勢」であると言えます。

 そうした姿勢は、イノベーションを起こそうとしている側から見ると、誰も力を貸してくれないという孤立感を生み出し、諦めて活動をやめてしまうか、相手を抵抗勢力とみなし、戦闘モードに入るかのいずれかのパターンに陥ってしまいがちです。そういった状況に陥れないためには、普段から「あなたの言うことだったら力を貸しましょう!」と言ってもらえるような関係資本を蓄積することや、「実は私たちもとても困っていたところで、そういう提案は、まさに渡りに船だ」と思ってもらえるような施策の提示の仕方を含めたコミュニケーション力を高めたりすることが非常に重要になってきます。

 特に、新しく提示する施策が、相手の不利益を一時期的にでも生じさせてしまう場合や、感情を逆なでしてしまう恐れがあるものであれば、あるほど、細心の注意と、普段からの積み重ねが必要になることは言うまでもありません。そして、イノベーションを起こそうとしている側の自助努力だけでなく、周囲の協力の風土を全体的に醸成することも重要です。

 「何をしようとしているのかを全て分かっているわけではないが、まずは一肌脱ごうじゃないか」という風土のあるチーム・組織・コミュニティとそうでない場合とでは、イノベーションの質だけでなく、イノベーションが生じる頻度も大きく変わってきます。

 そのイノベーションを実践に移していくうえで、どのステークホルダーをいつの時点から巻き込んでおくのかを冷静に見極めながら、周囲とダンスを繰り広げていくことが非常に重要です。

2、垂直方向:日常的な源(ソース)とのつながり

 何かしらのイノベーションを展開していく上で、水平方向の原則は、至極当然なことに見える一方で、垂直方向の原則は、U理論ならではといえます。このU理論ならではの垂直方向の原則があるからこそ、U理論における水平方向の原則も独自性のものが生まれてくるのです。この垂直方向の原則は、まるでイチロー選手が毎打席、毎打席、最高のスイングができるように、日々の生活習慣も含めて、コンディションを整えているのと似ています。

 すなわち、Uプロセスは、アイデアがプロトタイプされるまで、1回だけ行えばよいのではなく、何度でも行うことに真髄があるのです。

 オットー博士は、「重要なのは、Uのプロセスを一度だけではなく、何度も、場合によっては毎日でも、たどるということだ。朝一番にチーム全員が集まって(可能なら意識的な静寂の時間を取る)、前の晩に考えたことを出し合ったり、その日やるべきことを確認したり、修正したりすることを習慣にするといい」と述べています。

 Uの谷を潜り、プレゼンシングにたどり着き、何度も源(ソース)につながることを習慣化していくことで、水平方向の協働を働き掛ける際にも、ダウンローディングに陥ることなく、相手との話し合いの時間の中で、未来を出現させ、そこからお互いに手を取り合って、活動を推進していくことが可能になります。

 この水平と垂直の原則を交差させつつ、「実践」を繰り広げていくことにより、単なる「実行」でも「実施」でもない、まるでオーケストラを奏でるかのようなダイナミックで調和の溢れた変革が可能になるという可能性をU理論は照らし出しています。

 このU理論の7つのステップは、従来型の変革成功事例を分析するだけでは実現することができなかった、変革への大きな道しるべになってくれるものと確信しています。

 全8回にわたって紹介したU理論は、今回をもちまして最終回となります。U理論との出会いを通して、何かしら読者の皆様の仕事やプライベートなど多方面において、過去の延長線でない新しい未来が始まることを心より祈念しています。長い間、ご愛読いただきありがとうございました。

著者プロフィール

中土井 僚

オーセンティックワークス株式会社 代表取締役。

社団法人プレゼンシングインスティテュートコミュニティジャパン理事。書籍「U理論」の翻訳者であり、日本での第一人者でもある。「関係性から未来は生まれる」をテーマに、関係性危機を機会として集団内省を促し、組織の進化と事業転換を支援する事業を行っている。アンダーセンコンサルティング(現:アクセンチュア株式会社)他2社を通じてビジネスプロセスリエンジニアリング、組織変革、人材開発領域におけるコンサルティング事業に携わり2005年に独立。約10年に渡り3000時間以上のパーソナル・ライフ・コーチ、ワークショップリーダーとしての活動を行うと共に、一部上場企業を中心にU理論をベースにしたエグゼクティブ・コーチング、組織変革実績を持つ。


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