「多くの人は、イノベーションを"技術の進歩"と混同している可能性が高い。進歩という概念は、古くから存在しているが、イノベーションは別物。1912年にヨーゼフ・シュンペーターが示した議論では、"非連続の変化"であり、これを受けてピーター・ドラッカーは、"価値次元の転換"に非連続性の正体を求めている」(林野氏)
例えばソニーのWALKMAN(ウォークマン)は、手軽な音楽プレーヤーを顧客に提供するというイノベーションだった。しかしアップルのiPodは、それのみでは価値次元の転換だが、音楽コンテンツをCD販売というハード流通からインターネットでデータ流通させ、供給側から需要側に移すという非連続な変化をもたらした意味でイノベーションである。
イノベーションの条件は、需要側の価値に劇的な変化が起こること。いまの延長線上で何かを進歩させるだけでなく、社会にインパクトをもたらし、人々の生活を変えるものでなければならない。その意味ではiPS細胞は、将来性は高いが、現状では"インベンション(発明)"の域を超えていない。
林野氏は、「当社の"カードの即与信・即発行"も"サイレンス"も"永久不滅ポイント"も、その意味からするとイノベーションである。これが厳しい規制法規の中で、当社が生き残った理由である。"Saison American Express Card"もインベンションの産物。これをイノベーションまで進化させたい」と話している。
イノベーションの基礎は、「クリエイティビティ」であり、クリエイティビティの基礎は、「好奇心」ではないだろうか。クリエイティビティは、「生まれつきの才能」や「一部の人だけが持つ特殊な才能」とはいえない。個人が長い人生の中で「獲得」し、「発展」させていくものである。
企業のイノベーションは、営業企画や商品開発など、限られたセクション固有の概念であり、これが機能別組織の弊害となっていた。現在では、あらゆるセクションのあらゆる雇用形態の人たちが参加すべきものに変わってきている。林野氏は、「イノベーティブな組織でないと生き残れない時代」と話す。
こうした時代に求められるリーダーは、ビジョンや夢を掲げ、部下に具体的な数字を持って説明し、共感させ、率先垂範して、巻き込んで、一緒に仕事をしていくタイプである。その上でリーダーが部下に示すべきは、「ディレクション(方向付け)」「デシジョン(決断)」「エデュケーション(教育)」である。
「企業がグローバルな競争の中で生き残るためには、独自のビジネスモデルを構築しなければならない。どの業界でもベスト3に入らなければ、統合・合併の対象となるしかない。企業活動が競争である以上、絶えずイノベーションを意識していかなければならない」(林野氏)
知的感性時代のリーダーには、時代の流れを鋭く感じ取る感性を持ち、ビジョン・目標を掲げ、組織のイノベーションを行い、新たな価値創造と顧客創造を主導する能力が求められる。この能力を表すビジネス指標が、「B.Q.(Business Quotient)」つまりビジネス感度であり、B.Q.は次の式で求められる。
B.Q.(ビジネス感度)=I.Q.(知性)×E.Q.(理性・人間性)×S.Q(感性)
I.Q.(Intelligence Quotient)は知性であり、E.Q.(Emotional intelligence Quotient)は理性・人間性であり、S.Q(Sensibility intelligence Quotient)は感性である。林野氏は、「B.Q.の高い、プロフェッショナルなビジネスパーソンこそが、知的感性時代の"革新型リーダー"である」と話す。
革新型リーダーにとって、もっとも大切なのは一見関係のなさそうなことを結びつける思考方法である。(1)何に対しても興味を持ち、(2)周囲、外界を注意深く観察し、(3)分野や文化の異なる人々と交流し、(4)広義の趣味、遊びを通じて経験を重ね、(5)発見やアイデアを実践してみることで、革新型リーダーになれる。
林野氏は、「革新型リーダーには、マーケティングやイノベーションを通して、企業のあるべき姿を描く"構想力"が必要である。リーダーシップを養うためには、"経験"と"育成"を効果的に組み合わせ、体系的、計画的にリーダーシップを発揮できる舞台を作ることが重要になる」と話す。
「日本の偏差値教育では、答えが1つしかない。しかし社会に出ると、課題を見つけるのも自分だし、答えも1つではない。複数の答えから最適なものを選んで実行していく。これが経営である。日本人は、管理、監督、指示、命令という教育のため、チームを変えることが苦手。自分で考える能力を磨くことが重要」(林野氏)。
また、新規事業や会社のゼロからの立ち上げ(リスクへの挑戦)、海外現地法人のマネージメント(ダイバーシティ・マネジメント)、不採算部門の再建・事業撤退(逆境・修羅場)など、「スポーツの世界で一流選手になるのと同様に、ハードトレーニングを積む機会を経験しなければ、ビジネスのプロにはなれない」(林野氏)という。
アインシュタインは1905年に、質量とエネルギーは置換可能であるとし、E=MC2という公式を発見した。ビジネスでは、A= CS2(A:Ability、C:Concentration、S:Second)という公式で表すことができる。つまり"能力とは、集中して努力した時間の2乗に比例する"と定義できる。
林野氏は、「1日1時間の努力により、1年で大きな差になる。つまり能力は、目標に向かって努力する情熱の持続力といえる。また成功とは、夢中になれることを仕事にするか、与えられた仕事に夢中になるかしかない。不満があれば、会社を変えるか、会社を変わるかである」と話している。
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明治学院大学 経済学部准教授