時代の変化を見越し、進化し続ける企業の組織の在り方に迫る気鋭の経営者に聞く、組織マネジメントの流儀(2/2 ページ)

» 2014年04月04日 08時00分 公開
[聞き手:中土井僚(オーセンティックワークス)、文:牧田真富果,ITmedia]
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 どうしても、「これは流行っている」、「ライバルがいない」、「新しくイノベーティブなことをやっている」という認識があると、それが未来永劫続いていくと思いたくなるのが普通です。でも、心のどこかでは「そんなことはないんじゃないか」と不安を抱えていたりする。現実をちゃんと直視しないために、分かっていたのにその変化に対処できないことが起きるのではないかと思います。特に社員を抱えていると、「辞めさせたくない」とかもっと言うと「嫌われたくない」という人間が本来持っている感覚も相まって、余計にその判断は鈍りやすくなります。

 この経験を通して、こういった感覚を断ち切っていかないといけないなと思ったのが私にとって一つの分岐点となりました。800人の部下を持っていたサラリーマン時代でも誰が辞めても構わない、誰かが辞めるっていう話に付き合っていること自体が時間の無駄だ、「やりたい」っていう奴に時間を使おうという今とは違う断ち切り方をしていた時期はありました。しかし、自分が経営者になってフリーキャッシュフローとか、社員の賃金とか見えるようになってからは、やっぱり「彼や彼女は本当にこの給料でやっていけるのかな」とその人の生活とかを考えるようになりました。この点はサラリーマンのマネジメントとは決定的に違います。大きなスイッチの入り方は変わりましたし、断ち切り方の意味も変わりました。

変わるものと変わらないものを見極めながら、新しい文化を創っていく

佐野氏(左)と聞き手の中土井氏(右)

中土井:自社が時代の変化についていけるのか?という恐怖は多くの経営者が持っているものだと思います。世の中が大きく変化するという危機に対して、どのような対策をとっているのですか。

佐野:パラダイムがどんどん変わっていくというのは自然の流れです。とはいえ、パラダイム・シフトが起きることは、ある程度想像できますが、いざ起きたときに対処できるのかすごく不安でもあります。時代の流れの中で、事業がダメになるときは必ず来ます。そのときに、新しいものを生み出すことができなければ、企業は存続できません。扱っている商品に対して愛着がありながらも、それが衰退してダメになっていくという経験を何度もしてきました。

 パラダイム・シフトが起こる前に、さまざまな手立てを考え、組織のモチベーションが下がらないような手立てを打っておく必要があります。一見、平穏無事に見えていても、実際には変化は今、起こっているわけで、いろんなスパイスを加えながら、体制が崩れないようにしつつもさらに上に行くように働きかけなければいけません。

 パラダイムが変わっていく中で、何が本質なのかを見極めて結果を出すことが大切です。例えば、われわれは今、グローバルWiFi (R)を事業にしていますが、事業理念としては「世界中でいつでもどこでも快適モバイル・インターネットを提供する」というものを掲げていますが方法は変わるかもしれません。(かつて電話回線がすたれネットにかなり変わったと同じように……)

 それとともに、「WiFiを今後ともずっと提供するとは言っていない。それは現段階でベストな手段であるだけだ(別の手段がいつでもどこでも快適な通信をするのに優れているなら変わるという意味を込めて)」」と社員には言い聞かせています。WiFiは商品なので衰退して消えてなくなる可能性はありますが、人がテレパシーを使うようにならない限り、通信がなくなることはないと思っています。

 グローバルWiFi (R)を扱うようになってきて、何が本質なのかを見極めて結果を出すことに加え、新しい文化や、常識を創っていこう、もっと言えば自分たちが新しいパラダイムを創っていこうという新しい軸(観点)も自分の中では生まれつつあります。

中土井:「時代のパラダイム」というだけでなく、自分自身や社員の中にあるパラダイムが変わっていくことや成長していくことにも関心が高いように思います。

佐野:そうですね。自分のパラダイムを変えていくことは結構苦しいところはありますが、私はかつての失敗を繰り返さないようには心がけています。失敗した当時は自分自身が見えていなかったために失敗してしまったことを、社員にさせてはいけないと思っています。だからといって、自分の経験を押し付けるようなことはせず、「このまま行くと、こういうことになりうるんじゃないか?」とその後の展開を自らが考えるように働きかけています。過去を数値として「見える化」しているのもそうした考え方に基づいています。今の時代の変化の中で、今のままの君だとこういう限界がやってくるんじゃないの? ということに気づかさせています。

 私は成長という言葉より、進化という言葉の方が好きです。成長はただ、過去の上に何かが乗っかっているだけのように感じます。それだけだと壁にぶつかった時に乗り越えていくのは難しいのかなと思います。それに対して、進化は危機から生まれるものだと思うんです。「変わらなければ死に途絶えてしまうよ」という前兆を感じ取ることで変わり始め、その変化に順応できたら生き残れるんだと思います。そういう観点があるから今の自分のままでは次はないということを予感させて、壁を乗り越えさせるように、社員に対してサポートしています。

最強の組織より、進化する組織を目指す

中土井:環境が変わっていく中で、本質は何かを見極め、早め早めに手を打って結果を出していく。そのためには自分自身のパラダイムも社員のパラダイムも変わるように働きかけていく。ある意味、波を見極めて乗るサーファーのようなイメージを持ちました。拡大志向のベンチャー経営者は多いと思うのですが、佐野さんの場合は今ある常識やパラダイムをあてにならないものとして捉えているところが興味深いです。これまでの経験や人生観が大きく反映されているんですね。

佐野:私の過去の失敗を踏まえ、同じ失敗を繰り返さないようにするという考え方は、組織作りにも反映されていると思います。理念や行動指針がベースにあって、時間の経過と伴って会社の歴史として積み重なっていくものを制度として反映していっています。ベースとしての理念や行動指針の部分がなければ、いい制度を外から持ってきたとしてもうまくいきません。

 われわれは、もともとは営業会社から始まっています。でも、世界の時価総額ベスト50の会社を見てみると、営業で商品やサービスを売って、頂点へ上り詰めた会社はゼロです。顧客志向とはどういうものか突き詰めてみると、結局は、一番気持ちいいものが選ばれるということだと気付きました。営業部隊の人数を増やして売っていくのではなくて、選ばれる仕組みを時代の変化にあわせて用意していくということが大切なのではないかという思いに至り、今のような組織形態になっています。しかし、これが最強な組織の姿だというわけではなく、通信の分野で新しい常識を作り、次のパラダイムを作ろうとしているわれわれにとってふさわしい組織の姿は変わっていくのだと思います。

中土井:変化の波の中で、新しいものを生み出し、進化を遂げることを可能にするマネジメントや経営のお話、とても勉強になりました。

対談を終えて

 営業会社の社長で、23歳の時に800人の部下を抱えていたと事前に伺っていたこともあり、強烈な達成志向の持ち主で、目標を達成するためには手段を選ばないというブルドーザーのような方なのかなと想像していましたが、実際の佐野社長のイメージは全く異なっていました。もちろん、類まれなる前向きなエネルギーは感じられますが、それだけではありませんでした。むしろ、一つのパラダイムにはまり込んで、やみくもに目標達成をしてくことに陥らないように細心の注意を払いつつ、「強さ」よりも「柔軟さ」を大事にしているように感じました。それが「進化」という言葉で表されていたのではないかと思います。変化が激しい時代だからこそ、未来だけでなく、過去も見据えることで、時代の流れやパラダイムのシフトを感じ取ることが大切であるという佐野社長の流儀は、組織マネジメントに関わらない人にとっても大切な視点なのではないでしょうか?

プロフィール

中土井 僚

オーセンティックワークス株式会社 代表取締役。

社団法人プレゼンシングインスティテュートコミュニティジャパン理事。書籍「U理論」の翻訳者であり、日本での第一人者でもある。「関係性から未来は生まれる」をテーマに、関係性危機を機会として集団内省を促し、組織の進化と事業転換を支援する事業を行っている。アンダーセンコンサルティング(現:アクセンチュア株式会社)他2社を通じてビジネスプロセスリエンジニアリング、組織変革、人材開発領域におけるコンサルティング事業に携わり2005年に独立。約10年に渡り3000時間以上のパーソナル・ライフ・コーチ、ワークショップリーダーとしての活動を行うとともに、一部上場企業を中心にU理論をベースにしたエグゼクティブ・コーチング、組織変革実績を持つ。


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