エッジの効いた弱者の戦略で戦う コニカミノルタ海外進出企業に学ぶこれからの戦い方(2/2 ページ)

» 2014年07月08日 08時00分 公開
[井上浩二(シンスター),ITmedia]
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産業用材料・機器事業での選択と集中

 この事業領域でも、コニカミノルタは世界シェアトップの製品を有している。液晶偏光板用薄膜TAC(Tri-Acetyl-Cellulose)フィルムである。この高機能フィルムは、カメラの写真フィルム製造で培ったロール・ツー・ロールの高機能フィルム加工技術を活用して作り上げた製品である。この技術を生かして開発を進めてきた他の製品が有機EL照明で、同社は今年3月に100億円を投じて月産100万枚の工場を甲府に建設し、今秋から量産を開始すると発表した。

 競合他社がまだ月産数千枚しか生産能力がない中、この規模は群を抜くものである。この有機EL照明事業の取り組みも、同社のジャンルトップ戦略の特徴を良く表している。まずは、先に述べた通り、過去から保有する強みであるロール・ツー・ロールの生産技術を生かしている点である。有機材料をフィルムに蒸着させる際に、費用を押さえて生産できる技術を開発してきたのだ。また、有機ELの活用においては、TACフィルムの事業領域との整合性から考えるとフラットパネルを選択してもおかしくないが、照明を事業領域として選択した。フラットパネルは、照明よりも競争環境が厳しくなることを想定した上で、照明市場の裾野の広さを勘案しての事と思われる。

 また、その開発においては、当初はゼネラル・エレクトリックと、2011年からはフィリップスと提携していることも注目に値する。自社よりもかなり大きな企業と組むことは、時に相手に飲み込まれせっかくのビジネスの芽を奪われるリスクもある。しかし、コニカミノルタは自社の強みである技術を武器に、強大なパートナーと対等に渡り合い、オープン・イノベーションを実践しているのである。

 この事業では、もうひとつ特筆すべき製品がある。PC向けHDD用ガラス基板事業である。カメラのレンズ加工技術を活用して作り上げた事業で、2000年代後半はHOYAに次いで世界シェア2位に躍進し、コニカミノルタの収益の柱の1つになっていた製品である。しかし、環境は2012年から激変する。スマホやタブレットの伸びに押され、ノートパソコン市況が悪化し、記憶装置もSSDが台頭してきた。

 その結果、2013年度4-6月期の売上が前年同期比9割減となると、2010年に製造能力増強のためにマレーシア工場に110億円を投じたにもかかわらず、2014年3月期に168億円の特別損失を計上、13年11月に生産を終了してこの事業から撤退することを表明した。2003年から06年にかけてフォトイメージング事業で赤字を流し続けた時とは雲泥の差のスピーディーな意思決定である。創業事業との違いがあるとは言え、過去の失敗から学んだ環境変化への高い適応能力と言えよう。

市場の変化に対する仮説を立てて、勝てる領域を選んでビジネスを展開する

 コニカミノルタには、上記の他にもレンズ系の光学事業、光計測を軸とした計測機器事業、DR(Digital Radiography)を軸としたヘルスケア事業があり、おのおの強い製品を世に送り出している。全て、創業事業であるカメラとフィルムの光工学技術を活用して作り上げてきた事業である。つまり、同社は創業から脈々と培ってきた技術を軸に、オープン・イノベーションの手法も取り入れて新たに企業を支える製品を作り上げてきた、技術オリエンティッドの企業である。

 ただし、2006年に創業事業を売却するという辛酸を舐め、自社よりも強大な競合と伍して戦うことができるしたたかな企業に生まれ変わってきた。市場の変化に対する仮説を立てるというのは、言葉ではもっともな話だが、実践は難しい。これまでに見てきたように、コニカミノルタは過去の失敗を生かし、同じ轍を踏まないように舵取りをしているからこそ、グローバル市場でこれを実践できていると言える。自社の強みを生かせる、エッジの効いた製品でジャンルトップを目指し、そのために限られた資源を選択して投下するのだ。

 2013年4月、それまでのホールディングス体制の下で各事業会社を運営する形態から単一の事業会社体制に転換したのは、これまで以上に限られた資源を集中して管理して必要なところに投下する、全体が同じベクトルで集中してビジネスを展開できるようにするための変革と思われる。戦い方は、基本的にマーケットインの志向を貫いており、ニーズに応える製品、サービスを考え抜いて提供している。

 このような戦い方は、優れた技術を有する多くの日本企業にとって、参考になる部分が多いと思う。更に、箱売りからサービスへの転換をどのように行い、競合に先んじたビジネスをいかに展開してきているかもひとつの橋頭堡(ほ)になるのではないだろうか。自社よりも企業体力のある競合といかにグローバルの舞台で戦っていくか、今後もコニカミノルタの戦い方に注目したい。

著者プロフィール

井上 浩二(いのうえ こうじ)

株式会社シンスターCEO。アンダーセン・コンサルティング(現アクセンチュア)を経て、1994年にケーティーコンサルティング設立。アンダーセンコンサルティングでは、米国にてスーパーリージョナルバンクのグローバルプロジェクトに参画後、国内にてサービス/金融/通信/製造等幅広い業種で戦略立案/業務改善プロジェクトに参画。ケーティーコンサルティング設立後は、流通・小売、サービス、製造、通信、官公庁など様々な業界でコンサルティングに従事。コンサルタントとしての戦略立案、BPRなどの実務と平行し、某店頭公開会社の外部監査役、MBAスクール、企業研修での講師も務める。


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