ITは、飛行機や新幹線、道路、金融、行政、病院など、いまや社会インフラ、産業インフラであり、そのトラブルは、社会に致命的な麻痺を引き起こす。東日本大震災においても、ITシステムが利用できないことで、さまざまな問題が発生した。木村氏は、「セコムができることは事業を継続することであり、セコムにしかできないことは避難者の生命を守ることです。これが、一番大事なことです」と話す。
東日本大震災の教訓として、「セコムができることは何か」「セコムにしかできないことは何か」「いま一番大事なことは何か」を検討した。セコムが必要とされるのは、セキュリティ、警備、防災、医療など、万が一のときである。木村氏は、「東日本大震災では、通信、道路、電力、水道などの社会インフラが使えない状況で、残念ながらセコムも無力でした」と当時を振り返る。そこで真の社会システム産業への挑戦がスタートした。
東日本大震災の死者・行方不明者は約2万人で、避難者数はピーク時に43万人に上った。このとき電気、ガス、水道という社会インフラが崩壊しており、避難所の衛生確保の緊急性に気付き、マスク500万枚と消毒剤1万リットル、合計10億円分を提供した。また物資輸送用にヘリコプターを提供したほか、全国から延べ1万人の社員を被災地に派遣した。福島第1原発・第2原発では、テロ対策と消防業務を行っていたが、大震災直後は冷却水供給のための特殊任務に携わった。
さらにセコムグループの病院でチームを編成し、医師や看護師が被災地で医療救護を支援している。復興フェーズでは、パスコが衛星画像情報などのGISデータを損害保険会社などに提供。普段飲んでいる薬の情報や電話番号、記念の写真などを、セコムのデータセンターで預かる「データおあずかりサービス」も開始。ホームコントローラをフォトフレームに使える仕組みも開発した。
木村氏は、「災害時に、両親、親族などの携帯番号を覚えている人がどれくらいいるでしょう。携帯電話を使っていると、連絡先から選んで発信キーを押すだけなので、番号を覚えている人は非常に少ない。そのため避難所から両親に連絡できないという場面をたびたび目にしました。また津波で写真が流されてしまい、すべての思い出がなくなってしまったという話しも聞きました。そこでデータおあずかりサービスを開始しました」と話す。
「社会インフラの危機下でも“困ったときはセコム”と言われたい」(木村氏)という新たな決意で事業に取り組んでいる。例えば、通信インフラが使えない場合に飛ばす、通信基地局を搭載した飛行体を開発している。がれきの中でも走れ、生体反応セインサーを搭載したクルマも開発している。現地に行けない場合に備え、お客さまの物件に小型飛行ロボットを設置することも発表した。現在、37種類のプロジェクトを推進している。
画像認識技術やセンシング技術、ICタグ、GPS、ビッグデータなど、ITの進化により人の手によるデータ入力が不要になっている。人の動き、モノの流れそのものが情報であり、実体と情報が一元化されている。いまやITは、大量処理や業務効率化のツールではなく、経営ツールでもない、事業モデルそのものの革新ツールとなっている。
木村氏は、「セコムはITを活用することで、事業モデルを変革させました。警備会社でありながら、警備員を増やすことなくサービスの量と質を向上しています。ITを使った業務モデルの変革は、どの会社でもできます。やらなければ市場で生き残ることは難しいと思っています」と話す。
「金庫はお金や宝石などの大切なものを盗まれないように保管するものと思われていますが、当初は耐火を目的としていました。そこで金庫とその周辺の床を一体化させた絶対に盗まれない金庫を作り、特許をとりました。世の中にこれしかないことなどあり得ません。常識は疑ってかかる“否定の精神”が必要です」(木村氏)。
ITの進化がもたらした脆弱性をITだけで克服することはできない。ワクチンの開発は、ウイルスの発生の後である。防御は情報と実体を融合した対策が必要になる。セコムの強みは、センシング技術、画像処理技術、通信技術、ビッグデータ解析技術、情報セキュリティ技術に加え、プロフェッショナルに即応できる人的能力にある。
木村氏は、「2020年に開催される東京オリンピックは、すべての企業にとって大きなチャンスだと思っています。1964年に作られた社会インフラを、すべて作り直す絶好の機会なのです」と話している。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
株式会社CEAFOM 代表取締役社長
株式会社プロシード 代表取締役
明治学院大学 経済学部准教授