このように全体の7割のがんは、積極的に定期検診を受けて早期発見ができれば、確立された現代医療により治癒させることができます。そして、治癒が可能になるばかりか早く見つければ見つけるほど負担の小さな治療で根治できるようになってきました。
例えば、大腸がんは注目に値します。大腸がんは、近年増加傾向にあることがしばしば指摘されますが、がんの中では比較的緩徐に発育するタイプで、検査法や治療法が確立されています。すなわち、検査を受けることを忌避せず早期発見できれば確実に根治することができる代表的ながんです。
大腸がんが早期で粘膜内にとどまっているレベルであれば開腹手術を受けずに内視鏡検査の時に同時に切除することができるのです。検査を受けるだけの負担で同時に根治的治療も受けられるということになります。
一方で、多くのがんがそうですが、大腸がんは、発生直後は無症状です。自分は大丈夫だと、何年も検査をせずに放置しているうちに、知らぬ間に発育したがんが腸管の内腔を塞いでしまい、腸閉塞の症状を来して治療を余儀なくされることがあります。こうなってから発見された大腸がんは多くは進行がんで、その時点で既に肝臓や肺に転移していることもしばしばあります。
このレベルではどんなに大きな手術を行っても根治的治療を実現するのは極めて困難になります。一時的には治癒手術ができたように見えても、数年後に再発してコントロール不能になるという悲劇が発生することが少なくありません。
定期的に内視鏡検査を受けて、たとえがんが発生しても検査と同時に根治的な治療を済ませられるか、何年も検査を受けずに進行がんとなり自覚症状に悩まされてから初めて医療機関の門戸を叩いて手遅れになるかは、治療を受ける主体者である皆さんにかかってきます。
胃がんや乳がんなど発症数は多いが早期発見、早期治療が可能ながんも同様です。このように早期発見、根治的治療が現実的ながんは、がんを治すということだけではなく、できるだけ体に負担を掛けない治療、大きくメスを入れない治療の開拓に目が向けられています。
例えば、胃がんも内視鏡で切除する方法が開拓されていますし、乳がんは乳房温存治療や乳房再建治療がほぼ標準化されるなど、がんを治すことにとどまらず、身体の負担や精神的負担を減らす質の高い治療が選択できるようになってきています。しかし、これら高品質の治療が享受できるのは早期に発見できた時のみです。
一方、膵臓がんや胆管がんは早期発見や根治的治療が困難ながん(難治がん)の代表です。スキルス胃がんも一般の胃がんとは異なり、膵臓がんや胆管がんと同様に難治がんに含まれます。このような早期で発見できないがん、治療をしても間もなく再発して最終的には死に至るがんに対する根治的治療は、残念ながら確立されていません。
前述のように、根治できるがんは7割を占めるようになってきましたが、これら比較的少数派の難治がんに対してどのように与していくかは、現代医療において喫緊の課題と言えます。人生を大切に捉えて、生活の質をできるだけ落とさない治療の立案に励む必要がわれわれにはあります。
化学療法は分子標的薬、免疫療法薬など新しい治療薬が開拓されていますが、軽減されたとはいっても副作用が相応にあることや高額の薬価負担などの問題があります。副作用がなく、生活の質をさげない、効果的な治療、薬価負担も大きくない治療の開拓が望まれます。ウイルス療法、核酸医療、遺伝子治療など今後の新しい治療に期待するところ大です。
1965年、青森県生まれ。東京大学医学部卒業後、東京大学医学部付属病院第一外科勤務。その後、虎の門病院で麻酔科として200例以上のメジャー手術の麻酔を担当。94年より三楽病院で胃ガン、大腸ガン、乳ガン、腹部大動脈瘤など、消化器・血管外科医として必要な手術の全てを豊富に経験した。97年より東京大学医学部第一外科(腫瘍外科・血管外科)に戻り、大学病院の臨床・研究スタッフとして後輩達を指導。
2000年に北青山Dクリニックを設立。下肢静脈瘤の日帰り手術他、外科医としてのスキルを生かした質の高い医療サービスの提供に励んでいる。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
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明治学院大学 経済学部准教授