DXの“全社ごと化”によりヘルスケア産業におけるトップイノベーターを目指す――中外製薬 執行役員 デジタル・IT統轄部門長 志済聡子氏ITmedia エグゼクティブセミナーリポート(2/2 ページ)

» 2021年07月14日 10時00分 公開
[山下竜大ITmedia]
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 (4)人財育成・獲得・組織風土改革では、社員のアイデアを実現する仕組み「デジタルイノベーションラボ」を活用してチャレンジ精神や失敗の許容といった風土への変革を目指すと共に、社内のデジタル人財を育成する仕組みの構築育成や外部との連携によるオープンイノベーションなども推進している。志済氏は、「こうした活動を通じ、社内で生み出される、あるいは蓄積されるデータを利活用することで、そこから得られるインサイトにより、革新的な新薬創出や新しい革新的なサービスの提供を、全社をあげて実現したいと思っています」と話している。

DX推進の取り組みが評価され、DX銘柄2020に医薬品業界で唯一選定

 創薬プロセスにおけるAIの活用では、抗体・中分子デザインへの機械学習活用に注力。また、病理画像を解析するデジタルパソロジー技術は、AIと非常に相性がよく、スピード化、効率化が期待できる。論文解析やテキストマイニングも、AIの得意分野の1つ。AIやディープラーニングのスタートアップ企業との協業も推進している。

 志済氏は、「2022年に、御殿場と鎌倉にある研究所の機能を集約した、新しい次世代型の研究施設「中外ライフサイエンスパーク横浜」を竣工予定。ここをAIやデジタル技術を活用した研究プラットフォームにしたいと思っています。機械学習は、標的分子に対するアミノ酸配列の最適なパターンの発見に有効です。そのためのMALEXA(MAchine LEarning X Antibody)と呼ばれるアルゴリズムも開発しています」と話す。

 またこれまで臨床試験では、患者を集めたり、インフォームドコンセントを実施したり、当局に報告したりと非常に時間がかかっていた。レセプトや電子カルテ、診療レジストデータなどのRWDを活用することで、承認申請を効率化し、社内の意思決定の迅速化につながる可能性がある。また、上市後の価値を証明するためのエビデンスとしてもRWDの活用が期待されている。

 さらにデジタルバイオマーカーの分野では、ウェアラブルデバイスを通じて生理学的データを収集することで、これまで得ることのできなかった患者さんの状態把握が可能となる。中外製薬では、ウェアラブルデバイスとAIにより、痛みを客観的に測る観察研究を開始している。また、血友病の患者さんの行動と出血の関連性などを評価する研究も進めている。

 バリューチェーンの効率化では、未来型工場の実現に向けた取り組みを推進。既存の業務の集約・プロセス改善を行うと共に、データに基づいて可視化することで作業を効率化。熟練者のオペレーションを、ウェアラブルやARなどで、若手に浸透させることも目指していく。最終的には自律・自動化したスマート工場の実現につなげていく。

 バックオフィス全般の自動化としては、RPA(Reconsider Productive Approach)と呼ばれる独自の取り組みを2018年より開始。2023年には、RPAとAIの活用で10万時間の業務時間削減を目指す。またクラウド基盤であるCSI(Chugai Scientific Infrastructure)を、さまざまな研究や解析、アカデミアや病院との共同研究などに活用。大量データをセキュアに活用できるほか、オンプレミスに比べ環境構築のコスト削減や時間短縮も可能になる。

 志済氏は、「2021年より、主にデータサイエンティスト、デジタルプロジェクトリーダーの本格的な人財育成も開始。デジタルイノベーションラボでは、2020年に144件のアイデアが寄せられましたが、2021年はすでに150件を超え、社内のイノベーションを推進する文化が醸成されてきています。こうしたさまざまなDX推進への取り組みが評価され、2020年8月に経済産業省と東京証券取引所が共同で選定するDX銘柄2020に、医薬品業界で唯一選定されました」と社内での成果・社外からの評価の実例で締めくくった。2021年6月に発表されたDX銘柄2021にも2年連続で選定され、さらに取り組みが進んでいることが実証された。

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