この経験での一番の学びは、部下に対する上司の在り方だった。上司の仕事とは、「部下を自分の思い通りに動かすこと」ではなく「部下自身に何をすべきかを考えさせること」だと知った。
大昔、上司と部下の違いは、命令する側と命令される側の違いくらいにすぎなかった。
上司がやっている仕事と部下がやっている仕事は同じだった。上司は部下より多くの経験を積んでいた。経験の浅い部下よりも上司の方が仕事ができて当然だった。
かつては、部下を命令で動かすことがマネジメントだと考えられていた。今日、時代の流れとともに、仕事は細分化され、専門化された。上司は、部下の仕事の詳しい中身まで分からなくなっている。例えば、ソフトウェアを開発する会社では、上司は完成させるものは分かっていても、部下が作るプログラムの中身までは分からない。また、上司の仕事は「新しい商品を出すこと」であって、「新しい商品を考える」のは部下の仕事といったケースはよくあることだ。このように、現在は、上司の仕事と部下の仕事はまったく違うものになっている。部下を命令で動かそうとする考えが間違っている。いや、間違っているだけではない。時代遅れである。
上司の仕事は、「部下を動かすこと」ではなく、「部下の強みを生かすこと」に変わった。上司がいちいち口出しをするような組織は発展しない。上司の仕事は部下の仕事に首を突っ込むことではない。アドバイスすることでもない。何が問題かを部下自ら気付けるように導くことだ。会社が進む方向性を明確に打ち出し、それさえ組織で共有できれば、上司の指示はいらない。
時代はすっかり変わった。時代が変わった以上、上司はこれまでの自身の在り方と、今までの仕事のやり方を変えなければならない。
1、部下に責任を持たせる
自分が担うべき責任は何か。部下とじっくり話し合い、上司の役割として、自分が担うべき責任について部下の考えを導き出す。
2.、期待の合意を創り出す
自分が期待されていることは何か。部下の考えをじっくり聞き、上司の役割として、部下の考えを明らかにすることを助ける。
3、部下の強みを生かす
自分の強みを生かしてどのように成果をあげるか。上司として部下の強みを理解し、部下が成果をあげる筋道を明らかにする。
冒頭申し上げたドラッカーの言葉はこうだ。「知識労働者にとって必要なものは管理ではなく自立性である。知的な能力をもって貢献しようとする者には、大幅な裁量権を与えなければならない。ということは、責任と権限を与えなければならないということである」
上記の3つはそれを実践することになる。今日から上記の3つのことについて部下と話し合う場をもって、部下の考えを導き出してあげてほしい。それが、今の時代に課せられた上司の仕事だからだ。
ドラッカー専門の経営チームコンサルティングファーム トップマネジメント
東京都渋谷区出身。ドラッカーコンサルティング歴約33年。外資系コンサルティング会社勤務時、企業向けにドラッカーを実践する支援を行う。中小企業の役員と上場企業の役員を経て、ドラッカーの理論に基づいた経営チームをつくるコンサルティングを行う、トップマネジメントを設立。現在は上場企業に「経営チームの研修」「経営幹部育成の研修」「後継者育成の研修」を行っている。
著書に『ドラッカーが教える最強の後継者の育て方』(同友館)、『ドラッカー5つの質問』(あさ出版)、『新版 ドラッカーが教える最強の経営チームのつくり方 』(同友館)、『日本に来たドラッカー 初来日編』(同友館)、『ドラッカーが教える最強の経営チームのつくり方 』(総合法令出版)、『ドラッカーのセミナー』(Kindle)、『ドラッカーが教える最強の事業承継の進め方』(Kindle)がある。主な連載に『ドラッカーに学ぶ成功する経営チームの作り方』(ITmedia エグゼクティブ)がある。ほか多数。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
「ITmedia エグゼクティブは、上場企業および上場相当企業の課長職以上を対象とした無料の会員制サービスを中心に、経営者やリーダー層向けにさまざまな情報を発信しています。
入会いただくとメールマガジンの購読、経営に役立つ旬なテーマで開催しているセミナー、勉強会にも参加いただけます。
ぜひこの機会にお申し込みください。
入会希望の方は必要事項を記入の上申請ください。審査の上登録させていただきます。
【入会条件】上場企業および上場相当企業の課長職以上
早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
株式会社CEAFOM 代表取締役社長
株式会社プロシード 代表取締役
明治学院大学 経済学部准教授