「経営計画書」のススメビジネス著者が語る、リーダーの仕事術

日本の法人は7割以上が赤字。「入ってくるお金」より「出ていくお金」を少なくすれば黒字にはなるが、できる経営者の次の一手は。

» 2010年08月26日 08時47分 公開
[河辺よしろう,ITmedia]

 この記事は「経営者JP」の企画協力を受けております。


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 経営者に「決算書は何のために作るのですか」と質問をすると、多くの人が「経営分析のため」と答えます。そもそも決算書とは「税金」を払うため、国に提出する書類として作られます。経営分析は2次利用であってアウトプットされた数字を当然そのまま経営に生かすことはできません。そんな決算書を見て税理士がいう言葉で気を付けていただきたいのが「売り上げが下がってきたので経費を削りましょう」です。

日本の法人は7割以上が赤字

 粗利益から経費を引いたものが営業利益です。会社は売り上げが下がったときにそれに合わせて経費を下げれば短期の黒字化は可能です。簡単に言ってしまえば「入ってくるお金」より「出ていくお金」が少なければ会社は黒字になるのです。JALの再建に取り組んでいる稲盛和夫さんの言葉を借りると「売上最大、経費最小、時間短縮」ということになります。しかし、このシンプルで簡単なことが、中小企業にはなかなかうまくできません。

 皆さんは知っていますか、現在個人事業も含めた日本の法人は7割以上が赤字という現実を。

 現在日本では毎年1万6000件ほどの会社が全国で倒産しています。中には税金を払うのが嫌で「赤字にしている会社」が多いからなどとまことしやかに話す人もいるが、現在の経営を取り巻くマクロ経済環境から考えるととてもそんな余裕が無いことが分かります。

 なぜならば日本で毎年倒産していく会社の7割は「販売不振」が原因だからです。

 実態を考えれば「販売不振」が原因で「入ってくるお金」より「出ていくお金」を減らすという単純な商売のロジックを経営上できなくなり、市場から退場していく会社が圧倒的に多いというのが現実です。

 さらに決算書上赤字を続けている会社は、2003年に開始されたリレーションシップバンキング(通称リレバン)の登場により金融機関との付き合い方にも難しさが生じてきます。

 リレバンとは、「長期的に継続する取引関係の中から、金融機関が借り手企業の経営者の資質や事業の将来性などについての情報を得て融資などを実行するビジネス-モデル」です。高度成長期のように土地などの不動産を沢山持っていれば、いつでもそれを担保に金融機関からの融資を受けられて、いつまでも赤字のまま会社の経営を続けていけるという時代ではなくなってきたからです。

 決算書上もしっかりと「入ってくるお金」より「出ていくお金」を減らすというシンプルなことができていないと経営も立ち行かなくなってしまうのです。つまり経営では「入ってくるお金を増やす」ことと「出ていくお金を減らす」ことを同時に実現しなければ会社は存続できません。

「営業経費」ではなく「営業投資」という考え方

 そこで注目していただきたいのが経費の中で最もウエイトが高い「営業経費」です。

 現在のデフレ経済下で最も経費が掛かるのが「お客様を作るコスト」です。人口減少、法人数減少によって営業担当者でもWebの営業でも年々顧客獲得競争は激しさを増しています。

 現実的には、例えば100万円の粗利益を得ることができたとしても、約93万円が経費として出ていき、営業利益として手元に残るのは黒字の企業でもわずか7万円ほどです。そこから税金を約半分持っていかれたら、純利益はたったの3万5千円にしかならないのが実態です。

 平均的には、経費として出ていく93万円の内23万円は一般経費、70万円が営業経費として使われています。一般経費は事務所の賃貸料などで目につきやすいので皆さん熱心に節約しますが、営業経費は外で使われるため効果が見えにくく節約が特に難しいのです。

 「売り上げが下がってきたので経費を削りましょう」という身近な税理士のアドバイスは一見もっともらしいのですが、経営者は「営業投資」という概念を理解していないでうのみにすると大変なことになってしまいます。

 当然ウエイトの高い営業経費を削ることは黒字化のためには即効性があります。しかし、営業経費は新規顧客の獲得と既存顧客を維持する会社の生命線となる大切な費用なので、単純に削減してしまうと一時的には黒字になるかもしれませんが、結果的に会社の首を絞めることになります。

 これからのできる経営者は、営業においては「経費」という考え方ではなく「投資」、つまり「営業投資」としての思想を持っているかどうかが大きな分かれ道になるのです。

 経営者は今までのようにアウトプットされた貸借対照表(B/S)の数字一辺倒の決算書で経営判断をするのではなく、B/Sで資金配分の安全性を見ながら、損益計算書(P/L)で経費の配分を考えてビジネスモデルを理解することが重要です。

 常に自分の会社の適正原価率、適性人件費率、適性営業費率、適性経常利益率などの配分を理解して、ビジネスモデルから考える「営業投資」を続けていくことが成功の近道です。

 当然「営業投資」ですから「リターン」を考えた経費の配分をすることが求められるので、的確にアドバイスのできる税理士とはそのことを理解しているかどうかです。

 経営の本質的な目的とは「顧客の創造」です。つまり新しい顧客をつくりだして、その新しく作った顧客を維持していくことなのです。

 ある調査によると中小企業で毎年経営計画書を作っている企業は全体の5%にも及びません。これは事業計画の予定と現実の数字が乖離しすぎるため、一度は経営計画書を作っては見たものの、予実管理ができずにあきらめてしまうことに起因します。

 ぜひ、成長を目指す皆さんの会社は「営業投資」の概念と、それに伴う「お客様投資計画」の考え方による経営計画書作りに取り組んでください。

 そしてそれを支える税理士さんは、そのことを理解して黒字化に貢献できるモチベーションと知識を持った方を選ぶことをお勧めします。

著者プロフィール:河辺よしろう

ランチェスターマネジメント株式会社 代表取締役、ビジネスモデルプロデューサー。世界初の医学用「独英和」3カ国辞典を執筆した父と教諭の母、現在有名私立大学教授の兄に囲まれて育つ。学業コンプレックスから30ヶ国を一人旅。米豪のブランドショップのユダヤ人や華僑の経営者の元で働き柔軟なビジネスモデル発想法に出会う。日本の大学を卒業後アメリカの大学へ留学しマーケティングを専攻。帰国後大手メーカーの開発研究員として新商品開発に携わり、東証1部上場の商社勤務を経て東京青山でコンサルティング&フランチャイズの会社として独立。同社を約1年半で資本金約1億円、社員100名超の規模に育て上げ、海外にも進出。現在はありふれた商売(商品)をキャッシュフローマシンに変えるビジネスモデルプロデューサーとして社員3名の町の電気屋さんから社員数13万人の大手部品メーカーまで幅広く指導。執筆、国内外での講演活動のかたわらラジオの人気コメンテーターとしても活躍。販路拡大、売上、利益向上の面から斬新なアイディアで新規事業の構築(イノベーション)や事業リノベーション(事業再構築)、新しいビジネスモデルを構築する手腕に定評がある。


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