パリからTGVで小一時間、優美なワイン産地ロワール地方へ松浦尚子のワイン&コミュニケーション

大河ロワールが育む美しい自然、歴史的遺産。飲みやすく彩り豊かなロワールワインは見逃せない。

» 2012年11月02日 08時00分 公開
[松浦尚子(サンク・センス),ITmedia]

 薄曇りの肌寒いパリからモンパルナス駅発のTGVに乗って小一時間。ジャルダン・ド・ラ・フランス(Jardin de la France)、「フランスの庭園」と呼ばれる優美な観光地ロワール地方を訪ねる拠点の街、トゥール市に到着します。あちらこちらに王侯貴族たちが自然や狩りを楽しんだ古城が数多く残り、歴史に名を連ねた王たちの暮らしぶりや生き様に想いをはせることができます。また、温暖な気候のもと、ロワール河の川魚や大西洋で取れる魚介類、山羊の乳から作るシェーヴルチーズも特産です。

 ワインの生産も盛んで、実はフランスで3番目に大きい産地。フランス四大河川の一つ、全長1020キロメートルに及ぶ一番長いロワール河に寄り添う形でバラエティ豊かなワインが造られています。その緯度から「北と南が出会う場所」と言われ、双方の美点を持ち合わせたバランスの良さが魅力です。得てしてフレッシュ、上品なスタイルで、基本的にブレンドをせず単一品種で造られています。

 上流ではソーヴィニヨン・ブラン種を使った辛口で硬質な本格白ワイン「サンセールSancerre」や「ピュイィ・フュメPouilly-Fume」が知られ、大西洋に注ぐ下流域では魚介類にぴったりな軽快なミュスカデ種の白ワインがあります。トゥール市はちょうど中間に位置し、周辺に広がるトゥーレーヌエリアで、白はシュナン・ブラン種の「ヴーヴレイVouvray」(辛口〜中甘口〜甘口まで多彩)、赤ではカベルネ・フラン種による「シノンChinon」や「サン・ニコラ・ド・ブルグイユ St-Nicolas-de-Bourgueill」などが見逃せません。

 先月(10月)初旬、ロワール地方トゥール市でフランスワイン産地への観光誘致を目的にした研修ツアー、商談会が開かれました。フランス観光開発機構による2年に一度の大掛かりなイベントで、世界数十カ国から150名、商談会にはフランス全土から160を超えるさまざまな企業、機関が集います。日本メンバーの一人に私も初めて招かれ参加してきました。

 研修ツアーは20名毎のグループに分かれ、各エリアの見どころを巡ります。私のコースでは、レオナルド・ダ・ヴィンチが生涯最後の3年間を過ごしたクロ・リュセ城やジャンヌ・ダルクゆかりのシノン城を訪問。

 ドメーヌ(ワイナリー)で特産のシェーヴルチーズと各種ワインの相性を試したり、別のドメーヌでは収穫一週間前のカベルネ・フランの樹の脇でブドウの味見をしつつ、熱心なオーガニック栽培家から詳しい話を聞くこともできました。また、特色ある宿泊には古城ホテルがあります。なかでも、岩窟ホテル「ドメーヌ・デ・オート・ロッシュ」は石灰岩の崖をくり抜いた同地方独特の住居スタイルで、他ではできない体験ができるでしょう。

 最終日の夜は、最も訪問者数が多い人気のシュノンソー城でガラパーティーが催されました。ギャラリーに準備された食事前のカクテルでは、トマトとバジルのガスパチョにサンセール・ロゼ、刻んだホタテ貝とそのムースにソーミュール・ブリュット・スパークリングなど、一つひとつにこだわりを持って、料理とワインが組み合わせてありました。

 国の所有かと思いきや個人の持ち物であったシュノンソー城。貫録と気品を兼ね備えたマダムから歓迎の挨拶がありました。当日のワインは全て2007年ソムリエ世界一に輝いたファブリス・ソミエ氏がセレクション。加えて、フラワーアーティストによるデコレーションが華を添えていました。

 ディナーでは一皿に白、赤、甘口のカテゴリーに分けて3〜4種のロワールワインが計15種出されました。しかし、長いレセプションとスピーチの後、ディナーがスタートしたのがなんと22時30分過ぎ。クタクタになりましたが、フランス文化の底力、プレゼンテーションの巧みさをまざまざと見せつけられた濃厚な一夜になりました。

 大河ロワールが育む美しい自然、歴史的遺産、飲みやすく彩り豊かなロワールワイン。今度フランスに立ち寄る際には一歩パリから足を伸ばしてみれば、フランスの懐の深さを実感できると思います。

著者プロフィール

松浦尚子

(有)サンク・センス 代表取締役社長

ボルドー国立大公認ワインテイスター

神戸大学教育学部卒。教育・出版会社ベネッセコーポレーションに勤めた後、フランスに渡り、世界の権威であるボルドー大学ワイン醸造学部が主宰する、日本人では数少ないワインテイスター専門家資格を取得。広島県の第3セクターのワイナリー設立にかかわり、米国・ボストンを本拠地とする投資会社に籍を置いて、日仏間で働く。通算5年間フランスに滞在した後、2002年秋に帰国。滞在中には、難関フランス文部省認定のフランス語資格試験DALFも全て取得する。帰国後、2003年4月に有限会社サンク・センスを設立し、代表取締役に就任。「フランス、ワイン、食」をテーマに、さまざまな切り口からこれまでにない発想でワインセミナー、イベントを中心にプロデュースを行う。2005年1月に立ち上げたサンク・センスワインCLUBには、ワインを軸に旅やグルメ、趣味など幅広い分野に関心を持つメンバーが集い、これまでにない質の高いコミュニティを形成している。また、フランス大使館主催事でのプレゼンターや六本木ヒルズクラブでのワイン講師、経営者を中心としたビジネスマン向けのワイン講演も数多くこなし、実績は多数。これまでに取り上げられた新聞、雑誌、ラジオ出演は数え切れない。富裕層向け雑誌や、大手都市銀行が運営するビジネス情報サイトなどでコラム連載も手掛け、多彩に活躍している。


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