PLMをERPと峻別する点は、ビジネスオペレーションではなく、製品に焦点を絞り込んでいることだ。ITエグゼクティブの多くは、ERP導入に比べるとPLMの実装はスムーズに行くという。しかし運用を誤れば、失敗ERPプロジェクトの亡霊が再び現れる。
「PLMはわれわれにとって、ERPよりも重要な、最重要システムだ。なぜなら、当社はまだ比較的若い会社で、現在、さまざまなR&Dに取り組んでいるが、製品はまだ開発段階にあるからだ」と語るのは、ワシントン州スポーケンに本社を置く燃料電池メーカー、レリオンのITディレクター、ブライアン・ソッサマン氏だ。同社は、主要な電話会社や政府系施設、電力会社向けに、緊急用のバックアップ電源を供給する目的で設立された。
本稿で取り上げている中堅企業の多くがそうであるように、レリオンもPLMシステムの発注先をマサチューセッツ州アンドーバーにあるオムニファイ・ソフトウェアに決定する前、候補となるベンダーを数社に絞り込み、自社のエンジニアに徹底的に調べさせた。
「われわれはIT部門のスタッフであって機械や電気の専門家ではない。導入後にそれをどう使うかは、彼らの方がよく知っている」と、ソッサマン氏は言う。
本稿に登場するITエグゼクティブの多くは、PLMの実装は過去に経験したERP導入プロジェクトと比べると、非常にスムーズに進められたと強調している。「PLMとERPの違いは、対象となるユーザーの違い。PLMはエンジニアで、ERPは業務と会計スタッフになる。こうした人たちはITの専門知識を持ち合わせていない」(ソッサマン氏)。
PLMシステムは、拡張マークアップ言語(XML)やエンタープライズアプリケーション統合などの基礎技術、データ保管室、ドキュメントやコンテンツ管理、ワークフローやプログラム管理などのコア機能、そして情報オーサリングツールと各種機能アプリケーションといった要素で構成される。高度に構成可能なPLMソフトウェアのモジュールは、さまざまなデータベースプラットフォーム(Oracle、SQLサーバなど)上で稼働し、基盤となるエンジニアリング、設計、製品データ管理システムと統合されている。
PLMをERPと峻別する点は、業務処理というビジネスオペレーションではなく、製品そのものに焦点を絞り込んでいること。ERPは会計や在庫データを処理するシステムだが、PLMソフトウェアは製品設計などに関する非構造化データを扱う。正しく運用すれば、PLMシステムは国内外で製品を製造・販売する企業に対し、技術的ならびに戦略的利益の両方をもたらす。逆に運用を誤れば、失敗したERPプロジェクトの亡霊が再び現れる。
例えば、統合化問題、ネットワークセキュリティやITアーキテクチャの設計、データアクセスにおける複雑さ、そしてソフトウェアのビジネスに対する投資回収率(ROI)を確保する困難さ――である。
実際、PLMのROIを示すに当たって、ややこしくなってしまう点については、多くのCIOやベンダーは同意する。PLMを導入するメリットは、表面上のコスト削減よりも、むしろ繰り返し発生するコストを回避できるということの方が大きい。
オムニファイ・ソフトウェアのCTO、チャック・シマロア氏は「ROIを検証することは難しい。従業員の労働時間を計量化するのは困難だからだ。ただ、それこそがPLMシステムの究極的な目標でもある。PLMは時間的コストを削減する」と話す。
また、PLMがミッションクリティカルな(24時間365日稼働する)アプリケーションであることを主張するのも容易ではない。なぜなら、これまで多くの企業が個別の製品の寄せ集めと「Excel」のスプレッドシートで対応してきたことだからだ。
「あまりに多くの製品ライン、あまりに多くの自動化すべき問題というクリティカルポイントに到達したとき、PLMの技術の真価を実証できる」と、シマロア氏は言う。
PLMに関するもう1つの懸念は、多くのアプリケーションがWebベースであるため、クロスサイト・スクリプティングやSQLインジェクション、あるいはクッキー改ざんなどの脆弱性を念頭に置いて構築されていなければ、セキュリティ上、極めてリスクの高いものになることである。
それでも、PLMなしに製品情報の山に立ち向かうことは「苦痛以外のなにものでもない」と、中堅電気通信機器メーカーのITディレクターは肩をすくめる。
「ライフサイクルのトラッキングが本格的にできないERPや各種エンジニアリングシステムで、膨大な部品を管理しなければならなくなるから」と、このITディレクターは匿名を条件に話す。「PLMが大きな利益をもたらすことは明白。だが、それが本当に必要なものであることを経営陣に理解させることは簡単ではない」と言う。
もちろん予算をつけることは、さらに困難な仕事になる。
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