【第1回】中堅企業のPLM導入は狂気の沙汰か?大企業以外でも見えてきたPLMの価値

これまで非常に高価だった製品ライフサイクル管理(PLM)ソフトウェアの価格が下がってきた。安価になっただけでなく、製品自体もシンプルになり、中堅企業でも製品デザインやグローバルワークフローを迅速化することが可能になった――。

» 2007年11月06日 11時39分 公開
[Maryfran Johnson,ITmedia]

 カリフォルニア州カールスバッドに本社を置く、年間売上高2億900万ドルのゴルフアパレルメーカー、アシュワースのIT担当副社長、フランク・マクマスター氏は、2006年秋、ほかのトップエグゼクティブたちを前にして心に期すところがあった。マクマスター氏はその時、3つの技術導入計画に取り組んでいた。新しいビジネスインテリジェンスシステムの構築、そしてERPの展開、最後にモバイルセールスフォースシステムの開発だ。

 マクマスター氏は会議室で、上司となる新任のCEOの横に座った。新しいCEOは、本業のゴルフコースやカントリークラブのプロショップでの高級ゴルフウェア販売を立て直すためにやってきた。会議室内の壁は、チャートやスプレッドシート、プレゼンテーションなどの資料で覆われていた。議論は次第に、ここ数年、同社を悩ませてきた在庫と製造の問題に収束していった。

フランク・マクマスター氏 アシュワースのIT担当副社長、フランク・マクマスター氏がPLMソフトウェアを導入したのは、設計プロセスにおける問題を解決するためだ

 「(これまでわたしが仕えていた)有力なビジネスオーナーたちは、何が自分たちにとって重要か、問題はどこにあるのか、を伝えてくれていた。だが、今この会社には製造と設計について、そして会社全体を見渡せる視野を持った者が1人もいないことについて、新CEOと議論した」と、マクマスター氏は振り返る。

 IT部門のトップにいたマクマスター氏はその時突然、何が必要なのかを悟った。

 「開発予定にはありませんが、PLMシステムというものがあります。当社でもぜひ導入すべきです」

変わりつつあるPLMソフトウェア市場

 数年前なら、アシュワースのような中堅レベルの企業がPLMソフトウェアを導入するといえば、狂気の沙汰と思われたに違いない。「当時、PLMという用語は、中堅企業をただ恐れさせるだけだった」と語るのは、ARMリサーチのPLMリサーチ担当副社長、マイケル・バーケット氏だ。

 「中堅企業にとって、PLMはボーイングの大型ジェット機のようなものだった」

 しかし、もはやそんな風に考える人はいない。AMRによると、今日、PLMソフトウェア市場において少なくとも25億ドル(およそ45%)は、中堅企業が占めている。この数字は、多くの中小企業がエンジニアリングやデザイン用ワークステーションをスタート地点とする、50億ドル市場のCADセグメントとは重ならない。AMRでは、PLM市場全体が年率9%で成長する中、中堅企業(メーカー)においては年率12%で拡大すると予測している。

 PLMを導入すれば、企業は初期設計やエンジニアリングダイアグラムから、素材の請求書、製造文書、詳細資料、保守データに至るまで、製品や部品に関する膨大な情報の管理とサポートが可能になる。数多くのベンダーが中堅あるいは中小企業向けに、あらかじめ構成したソフトウェアテンプレートとしてPLMを販売している。また、それらのテンプレートは、製造や設計プロセスに不可欠のCADシステムを核に、垂直市場別に用意されている。

 幾つかのマクロ経済トレンドは、企業活動のオフショアリングやアウトソーシングの拡大、海外メーカーとの提携、あるいは複数のビジネスセクターにまたがるM&A、さらには規制強化やコンプライアンス関連法の成立などを含め、PLM市場の高い成長性を示している。しかし、それだけでは不十分であるかのように、オンショアでも、特にエレクトロニクスやコンシューマーグッズ分野など、技術革新への容赦ない圧力が製品のライフサイクルを短縮し、製造工程へ厳しい要求を突きつけている。

 フォレスターリサーチの上級アナリスト、ロイ・ウィルドマン氏は「こうしたさまざまなトレンドが新たな課題を生んでいる」と指摘する。「アウトソーシングにまつわるコンプライアンスの問題、あるいは製品ライフサイクルの短縮にともなうアウトソーシングやイノベーション圧力など、今日は複雑な組み合わせの、まったく新しい課題に取り組まなければならなくなった」。

 こうした状況においてPLMソフトウェアの導入は、どのような製品を扱うにしろ、全社レベルのコラボレーションを可能にするチャンスだ。「PLMはマーケティングから製造、販売、サービスの各部門、さらには社外の納入業者に至るまで、それぞれの視認性を高め、製品開発の意思決定に強く結び付く」と、ウィルドマン氏は説明する。

 一方、バーケット氏は「比較的小規模な企業は、広範なアクセスや信頼できる文書化を実現するために、通常は基本的な製品データ管理から始める」と話す。データ管理ができるようになると、より洗練されたワークフローに進み、コラボレーティブな設計管理やプログラム管理をするようになる。

 「中堅メーカーでのオペレーションはシンプルだという誤解がある。実際には、大企業より複雑なオペレーションを行っていることが少なくない。手間のかかる設計業務の多くが、サプライチェーン経由で彼らにアウトソースされているからだ」と、バーケット氏は語る。

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