「経営活性化のためにITを導入してもうまくいかない」という経営者は多い。IT経営を成功させるポイントはどこにあるのか。
「IT経営を志向する企業の約7割は部分最適化で止まる」――ソフトウェア資産管理コンソーシアム主催の「SAM World 2008」が4月17日、都内で開催され、基調講演に登壇した経済産業省商務情報政策局の村上敬亮氏はこのように述べた。
村上氏は冒頭、日米でのIT投資状況を紹介した。過去30年間の日米でのIT投資の伸びをみると、バブル経済の崩壊までは日米とも同様に伸びていた。バブル崩壊以降、わが国では15兆円前後で伸び悩んでいるのに対し、米国では継続的な成長ぶりをみせている。
バブル崩壊後、GDP(国内総生産)に占めるIT投資はおおむね3.5%前後で推移。IDC調査によれば、この規模は世界と比較して低水準であり、Gartner調査でも日本企業のIT投資意欲は、世界で最も低いとの結果が明らかになった。
村上氏は、「米国ではIT投資の目的が顧客満足度の向上や競争優位性の確保となっているのに対し、わが国はコスト削減や合理化など“守り”が目的になっている」と述べた。IT業界の抱える、発注者と多重な下請け企業という産業構造にも課題があるといい、「IT化の目的に対する発注者の思考停止が問題だ」と語った。
経済産業者によれば、ITによって経営活性を志向する企業の約7割は部分最適化の段階にあり、全社最適化の段階に進んでいる企業は約3割と少数派にとどまっている。「この状況はここ数年変化がない」(村上氏)
村上氏が部分最適化にとどまる約7割の企業にヒアリングしたところ、「ベンダーに頼ったら想定していないシステムができた」「パッケージ導入後に現場が業務やシステムを軽視するようになった」「J-SOX対応で最適化が図れると期待したが、何も変わらなかった」といった声が聞かれたという。
「こうした課題は、そもそもIT経営の確立とは別次元のもの。経営者は、経営上の課題を基点にしてIT投資に対するコミットと視点を提示する必要がある」(村上氏)
IT経営を軌道に乗せるためのステップとして、村上氏はまず情報を可視化する「見える化」の作業に着手し、次に情報を「共有化」して、最終的に将来を見据えた業務の「柔軟化」につなげていくべきと述べた。このステップが、IT経営に成功している企業に共通してみられるプロセスだという。
「例えば業績拡大を志向した場合、現場の上得意客へのセールストークが営業戦略に重要な情報となるかもしれない。この場合、経営者は業績拡大という目的を現場担当者に理解させ、情報の可視化と共有化、戦略への展開につなげていくべき」(村上氏)
しかし、経営者が全社レベルの目的を社員に理解させることができなければ、社員は情報の可視化作業を面倒だと感じたり、逆に「自分だけのものだ」と抱えこんだりするリスクが生まれると、村上氏は指摘する。「経営者が情報のオーナーシップ(所有権)を持たなければならない」(村上氏)
部分最適化にとどまる約7割の企業では、このプロセスがうまく機能せず、結果としてシステム化をベンダーなどへ依頼する場合にIT投資の目的と具体像を提示することができなくなるという。ベンダー側も発注者の目的を十分に理解できず、結果として上記のような声が生まれてしまう。
最後に村上氏は、「IT投資プロジェクトは誰がオーナーシップを握っているのか、関係者が十分に理解することが重要。ソフトウェア資産管理やセキュリティ対策でも、まず根幹となるIT経営が確立されなければならない」と締めくくった。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
「ITmedia エグゼクティブは、上場企業および上場相当企業の課長職以上を対象とした無料の会員制サービスを中心に、経営者やリーダー層向けにさまざまな情報を発信しています。
入会いただくとメールマガジンの購読、経営に役立つ旬なテーマで開催しているセミナー、勉強会にも参加いただけます。
ぜひこの機会にお申し込みください。
入会希望の方は必要事項を記入の上申請ください。審査の上登録させていただきます。
【入会条件】上場企業および上場相当企業の課長職以上
早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
株式会社CEAFOM 代表取締役社長
株式会社プロシード 代表取締役
明治学院大学 経済学部准教授